21歳の秋、1年と3日の結婚生活に終止符を打った。
「大人の魅力」のある行動一つ一つが、少女の恋心を煽った
彼とナンパによる出会いを経て付き合い始めたのは、私が高校3年生の時だった。同級生やバイト先の大学生なんかと付き合ってきた18歳の私にとって、自分の両親よりも年上だったその男は、陳腐な表現だが、「大人のオトコ」として私の目に魅力的に映った。デートの舞台が大人の街のお洒落なお店であることであったり、こちらがお手洗いに席を外している間で会計を済ませてしまうスマートな振る舞いであったり、そういった彼の「大人の魅力」のある行動一つ一つが少女の恋心を煽った。
付き合い始めて1年ほどで、私の両親の反対を押し切っての同棲がスタートした。好きな人と毎日顔を合わせられること、デートが終わっても帰る家が一緒だから寂しくないということ、住民票に2人の名前が一緒に載っていること、私はどれもこれもが嬉しくて、きっとそれは彼も同じ気持ちであったと思う。だから私の20歳の誕生日、そう、婚姻届に親権者の署名が必要なくなる日に、晴れて私たちは夫婦になった。私は両親の反対意見を反故にしてまで、彼と結ばれることを選んだ。
仕事を辞めようと思った時、妻に相談するのが普通では?
大好きな人の名字を貰い、幸せの絶頂にいた私の心に陰りが見え始めたのは、彼が株の取引やFXなどの、私にはよくわからないお金の稼ぎ方をし始めた頃だった。そういった類の事に興味があったわけではない彼が、なぜ急にテキストを読み漁りセミナーに通うようになったのかは、いまだにわかっていない。
そして明確に「別れ」を意識したのは、彼が仕事を辞めてきた日だった。フリーターの夫がただの無職になったことはもちろんショックではあったのだが、そんなことよりも、この一連の流れが全て、彼から私へ何の相談も報告も無く行われたことが、妻として悲しかったのだ。これまでの仕事を辞めて新しいことに挑戦することは何も悪いことではない。しかし何か新しいことに興味が湧いてきた時、夫婦の何気ない会話の中でその話を妻にするのが自然ではないか?仕事を辞めようと思った時、妻に相談するのが普通ではないか?ましてや仕事を辞めた時、妻に報告をしないのはちょっと異常ではないか?
なんだか最近テキストを読むようになったなあ。
今までユーチューブを観る時にしか開いていなかったパソコンで、私にはよくわからない折れ線グラフとにらめっこするようになったなあ。
仕事で使っていたユニフォームや靴を持ち帰ってきて処分したなあ。
ずっと家にいるようになったなあ。
そんな風に、本人からは何も言ってもらえず、妻がひとりで夫の状況を推測しているなんて、あまりにも滑稽な夫婦生活だ。
彼にふられた理由と、彼をふった理由。2人とも子供だった
そんな思いが何日も私の中でグルグルと巡り、私は彼と離婚することを決意した。
「もう別れようと思うの」
家を出ていくお金が貯まったタイミングで、私は彼に別れを告げた。
話し合いの最後、「幸せにしてやれなくてごめん。紙は俺が持ってきてあげるから」
と彼は言った。
その日は、もう間もなく私たちにとって初めての結婚記念日を迎えようとする時期でもあった。
数日後、彼が役所から持ってきたその「紙」に必要事項を記入し、私たちの男女関係はあっけなく終わったのだ。たった1年と3日の結婚生活において、「離婚」も「離婚届」も、なんだか仰々しい感じがして、私たちは意識的にそれらの言葉を使わなかった。
別れ話の中で彼が話した、夫婦として必要な話し合いや相談を妻である私にしてくれなかった理由、「別にする必要ないと思った」。この言葉に私たちの別れの理由が詰まっていると思う。弱冠20歳の私は、妻として、人生のパートナーとして、彼の目には頼りなく映っていたのだ。別れを切り出したのは私の方だったけれど、これじゃあ私がふられたも同然だ。これが私の、彼にふられた理由。
同時に彼は、相手がどんなに子供だろうと、自分が妻として選んだ人を信じてもっと頼るべきだった。しかしそれが上手くできなかった彼は、私が思っていたほど大人ではなかった。これが私の、彼をふった理由。
離婚を伝えた時、ねぎらってくれた寛大な両親に思ったこと
そういえば二十歳の誕生日、私の両親には、婚姻届を提出した旨をLINEで報告した。結婚に反対していた彼らは半ば諦めきったようではあったが、祝福の言葉を返信に乗せてくれた。この時の彼らには今でも本当に感謝している。
手塩にかけて育てた自分の娘が、どこの馬の骨かもわからない自分らよりも年上の男なんかにもらわれていったら…私なら発狂するかもしれない。娘を勘当するかもしれない。相手の男が自分らよりも年上の石油王かハリウッドスターであれば話は別だ。我が娘の大躍進を大いに喜び、誇り、そして心の底から祝福するであろう。
しかし特に経済力のあるわけでもない、しかもフリーターである彼との結婚という私の決断を非難せず、LINEで静かに受け止めてくれた親としての覚悟。そして離婚したことを伝えた時、黒星一つ持ち帰ってきた娘を馬鹿にすることなく「よく頑張った」とねぎらってくれた寛大な心。本当の大人の魅力というのは、きっとこういうものを指すのだろうと、今なら思う。