え、今わたしは何を聞かされているのでしょうか? と、思わず声に出してしまいそうになった。

生理前症候群ことPMSが酷く、毎月、生理前になると途端に気持ちが驚くほど落ち込んでしまうのが長年の悩みだった。些細なことで涙が止まらなくなり、職場だろうが自宅だろうが関係なく涙腺がボロボロに緩くなる。家では猛烈に死にたくなって、泣き叫んでしまうことが多々あるし、なるべく人前で泣かないようにするのに精一杯で、仕事中はたった5分の休憩時間にトイレへ駆け込んで声を殺して泣いてしまう。そんなことが毎月のように、これからも起こると想像するだけで憂鬱だった。

だから、婦人科に低用量ピルを処方してもらいに来たところ、だったのだが。

PMS軽減を目的に「低用量ピル」を処方してもらいに病院へ行った

「繰り返しになっちゃうけど、本当は君みたいに若い子には避妊せずにドンドン子どもを産んでほしいんだけどね」
「…はぁ…そうですね…」
「まあそれぞれに事情はあるんだろうけど」と続けながら、目の前で先生がテキパキとカルテに最終月経日や血圧を書き込んでいく。色々と渦巻く感情を抑えて、心を無にしたまま、それでも些細な抵抗として小さく首を傾げて続きを聞いた。

「この前、都の健康診断に行ったらさ。小学生くらいの女の子が小さい子7人くらいを世話してたわけ。それ見て、なんて美しい風景なんだろうって思ったよ。そういうの、いいと思わない?」
「………なるほど…」
仕事中なら自分の意に反したことも飲み込めたかもしれないが、さすがにプライベートでそれはできなかった。せめてもと保たれた社会性が、真っ向から否定するのを我慢する。

どう返せば切り抜けられるか考えているうちにも、先生の言葉は続いていた。いい加減うんざりしたところで、看護師さんが横から「先生、他の患者さんが待ってますんで」と止めてくれて、わたしは診察室を後にした。

PMS軽減を目的に処方してもらったからか、保険点数を見ると保険適応になっていた。タブレットほどの小さな錠剤が21個で1,000円と少し。これが本当に効くのだろうか。訝しげな気持ちを抱えたまま帰宅した。

婦人科の先生に「子どもを産みなさい」と言われるたびに気が滅入る

結論から言うと、自分の体には幸い、低用量ピルが合っていたらしい。どうにもこうにも気分が上がらない日はあるし、心の器がグッと狭くなっている心地がする日はある。そういう時は大体が休薬期間中か、その直前だ。処方してもらう前にさんざん調べていた副作用や血栓症のリスクが上がるというデメリットは分かっているけれど、それでも飲み続けることにした。

とはいえ、シートが終わりに近付くと、いつも少しだけ憂鬱になる。翌月分のシートがある時はまだいい。次の月の分が無く、またあの病院へ行かなくてはならないと思うと途端に気が滅入る。

「子どもを産みなさい」「子どもを産んでこそ一人前の女だ」「本当に好きな男ができたら、その人の子が欲しいと思うようになる」そんなことを言われるたびに、「もう世は令和ですよ」と返したくなる。

わたしの人生で、わたしの選択だ。わたしが誰と生きようが、誰と生きまいが、他人には関係ない。ましてや、血の繋がりもない他人になど言われる筋合いもない。子どもが欲しいと思ったことは、人生で今のところ一度たりともない。

自分の身体や将来のだから、薬や避妊方法も「自分」で選ばせてほしい

最初こそ「子どもが欲しいと思わない自分は、何か人として大事な心が欠けているのだろうか」と悩んだこともあった。でも、それもやめた。本当に好きで苗字が欲しいと思うほど好きな恋人ができても、その気持ちは変わらない。

寧ろ「産んでくれるのは女性で、それは代われないのだから女性側の意思が優先されるのは当たり前」と付き合う前から言っていた彼だから好きになったのだ。もちろんそれだけが理由ではないけれど。

低用量ピルは薬だ。気持ちを軽くしてくれる。それはホルモンバランスを整えるという意味もあるけれど、好きな人と体を重ねた後に「もしも…」と不安な気持ちになるのを回避してくれるという意味でも。だから頼る。迷いなく飲み続ける。

病院を変えることも考えたが、そう毎月受診するわけではないし、こじんまりとした個人医院ゆえに待ち時間がかからないのは魅力的だった。それに、一度言われた言葉は病院を変えたところで残り続けてしまうから。それならいっそ「あの先生の話はいち意見だから」と流し続けるほうが楽だ。

誰がなんと言おうと、わたしの人生だ。選択は、わたしがする。