私は2年前の春に都内の大学を卒業し、今は社会人3年目だ。
学生時代、社会人の知り合いに、よくこんなことを言われていた。
「学生のうちにたくさん遊んでおいたほうがいいよ」
「社会人になると時間がなくなるから、今のうちに色んなところへ旅行しておいたほうがいいよ」
こういったアドバイスをもらった当時の私は仕事、そして社会人というものが、とても忙しいのだろうと感じていた。それと同時に、私は社会に出る嫌悪感さえ抱いていた。
長期の休みがなかなか取れず、遊ぶ時間もほとんどない、ひたすら仕事に追われて毎日が過ぎ去っていく。
そんな毎日を過ごすのなんて、嫌だった。
私は一生、行きたい時に行きたいところへ行くと決めていた
卒業前、私の周りは卒業旅行の話題で持ちきりだった。友人たちは「社会人になる前に、なかなか行けないところへ"卒業旅行"として行こう」と沸き立っていた。卒業の記念が目的ではなく、今後は滅多に旅行に行けなくなるから今のうち行っておこう、と考えていたからだと思う。
そして、私は学生最後の春休みに9カ国へ旅行した。ハワイやシンガポールといった人気の観光地から、メキシコやキューバという日本人にとってはマイナーな観光地にも足を運んだ。
しかし、私は心のどこかでこの旅行を"卒業旅行"にはしたくない、と思うようになっていた。なぜなら、今後旅行ができなくなるから旅行するのなんて絶対に嫌だ、と思っていたからだ。
"卒業旅行"という言葉から、"あのルール"がみえてきたのである。
社会人になったら長期の休みがない、遊べない、土日のために働く。
そういった当たり前の"あのルール"を、私は破りたかった。
社会人になったら旅行は我慢する、なんてできない。私は一生、行きたい時に行きたい所へ行く、やりたい時にやりたい事をやる、そう決めていた。
社会が決めたルールに従いたくなかった私は最高の職業を見つけた
そうなると普通の社会人でいるのは難しい。本格的に就職活動を始める前、大学のキャリアセンターで「数ヶ月単位の休みが貰える仕事ってありますか?」と質問した。
私に働く気がないと感じたのか、もしくは社会人がどのようなものかわかっていないと呆れたのか、会社や社会がどのような仕組みで成り立っているのか説明してきた。
社会から見て、自分がおかしなことを言っているのはわかっていた。
しかし、そんな"あのルール"は、社会が勝手に決めたものだ。
そして、そんな"あのルール"に従いたくなかった私は最高の職業を見つけた。
私は船乗りになったのである。
船乗りは4ヶ月続けて船上で働き、その後2ヶ月連続で休みが貰える。2ヶ月も休みがあれば、行きたいところに長期で滞在できる。それは私にとって最高のルールだった。
しかし、そこには想像以上に過酷な、新たなルールがあった。船の上には電波がなく、家族や友達にも会えない、新商品のアイスも食べられない、というあまりにも斬新なルールが存在した。
それでも、4カ月も拘束されるとなると、逆に諦めがつく。私は船の上でいかに楽しめるかを考えるようになった。そうすると船上生活はとても充実したものになった。
そして、社会に嫌悪感を抱いていた私が初めて、働くということを好きになれた。
自分に合うルールを見つければいい。新しい世界に飛び込めばいいのだ
船で働いて1年、当たり前の"あのルール"に従っていたら気付けなかったことに気付いた。
陸にいれば電波があって、コンビニで新商品のアイスが買えて、そして大好きな家族や友達と当たり前に会える。これ以上に求めることはない。この当たり前の幸せに私は気付けた。
船会社へ就職を決めたとき、私は周りに積極的にこのことを言えなかった。家族には反対され、友達には不思議がられた。その時の私に「大丈夫、ルールなんて自分に合ったものを見つければいいから」と言いたい。
どの世界にも"あのルール"は存在する。もしそのルールが合わないのであれば、そこにいる必要はない。新しいルールのある世界に飛び込めばいいのだ。
私が"あのルール"を破った先に見えたのは、私自身の生き方だった。