去年4月から社会人になった。学生時代には、休みの度に旅行に出かけていた。
夏休みには、涼しい北欧の国に2週間、春休みは寒さを凌ぐために南へ1か月。
こんな生活が、わたしにとって、当たり前だった。
突然奪われた「いつもの休日」。うまく気分転換ができない日が続いた
ところが、突然やってきたパンデミックは、わたしから「いつもの休日」を奪ってしまった。社会人の休日は、限られた時間であるけれど、自由に使える特別な時間だ。そう思っていたけれど、いつものように大好きな旅行をして、異国の地でいつもの休日を迎えることができなくなった。
エネルギーがあり余っているけれど、遠出はできない。一人暮らしの家では、ほとんど誰とも口を利かない。息が詰まる。上手く気分転換ができない日が続く。
本当だったら、初めての有給休暇は大好きなリゾート地で過ごしたかった。叶わない想いを胸に抱きながら、今までに訪れた街の写真をたどっていた。まるで、切ない恋をしながら、好きな人の写真を眺める少女のように。
「なんとか、この状況を抜け出さなければ……ちゃんと現実を見なければ……」
毎日のように自分に言い聞かせていた。
「チャイを飲みながらおしゃべりしよう」。私に届いた友人からの誘い
ところがある日、鬱々とした日常に変化が生まれた。
わたしの休日に、スパイスを与えてくれたのは、友人からのメッセージ。彼女は「オンラインで、一緒にチャイを飲みながらおしゃべりしよう」と誘ってくれたのだ。
「チャイ……?インド料理屋さんで最後に出てくるあれ……?」
正直、あまりピンと来なかった。
コーヒー好きの友達とはカフェ巡りもするし、在宅ワークのひとやすみには、さまざまな種類のハーブティーを飲んでリラックスもする。
でも、チャイを飲むことはなかった。まだいつもの休日をインドやスリランカで過ごしたことがないから、なじみがないのかもしれない。
チャイづくりに慣れている彼女は、ホールスパイスを集めて、レターパックで送ってくれた。
封筒を開けると、日常にはないスパイシーな香りが部屋に広がる。入っていたのは、シナモンスティック、グローブ、ドライジンジャー、そしてカルダモン。異国料理のレシピを眺めていると、たまに出てくるが、使ったことはないスパイスたち。
目の前の瞬間を楽しむこと。「いつもと違う休日」で得られたもの
急に気分が晴れた。まるで南国のビーチリゾートに連れ戻されたみたいだった。
この風味豊かなスパイスたちをすり鉢で砕いて、紅茶と一緒にお鍋で煮る。ゆっくりじっくりスパイスの個性を引き出すために、コンロに張り付きながら、温かく、好奇心が溢れた目で見守る。最後に茶こしで、大活躍のスパイスたちを取り除く。
デンマークで購入したお気に入りのカップに注いで、完成。いつも鬱々とした気分で過ごしているワンルームの部屋とは思えない香りが広がる。もちろんお味もスパイシーで、わたしの身体と心に刺激をくれた。優しくも少し癖のある、いつもと違う味。
一口すすると、ずっと感じていなかったエネルギーが少しずつ沸いてきた。遠い場所に想いをはせるのも良いけれど、目の前にある瞬間を楽しむこともとても大切。そう思わせてくれたチャイと、いつもと違う休日。
ただチャイづくりを楽しみ、友人と語り合う他愛のない時間。目の前の人やできごとに集中する。それが、わたしにとっての「いつもと違う休日」、そしてコロナ禍で得たものだ。