「早く結婚して幸せになってくれたら、それだけで十分だから」
これは父方と母方、両方の祖母たちの口癖である。私と私の双子の姉は、高校生の時からおばあちゃんたちに結婚することを期待されていた。その期待は純粋に喜べるものではなく、私たちを蝕む呪いになっている。

祖父母を招いて卒業祝い。話題はいつしか予定のない結婚の話へ

私たち2人は、高校卒業後の進路を大学と決めていた。だから、高校の卒業を控えた時期は、早く新生活を迎えたくて、さらには大学生になって自分の興味ある学問分野を学びたくてうずうずとしていた。

高校を卒業した当日。祖父母だけを招いて、ささやかな卒業祝いの集まりをすることになった。久しぶりに会った祖父母との会話を楽しんでいると、話題はいつのまにか私たち双子の将来についてへと変わった。
しかし、それは大学生活に関してではなかった。

「〇〇さん(父の名前)、この子たちが都会に行って彼氏でも連れて帰ってきたらどうするね?」
「どっちが先に結婚するのかなぁ、楽しみね」

みんなは私たちのこれからの大学生活ではなく、予定もない結婚や彼氏について勝手に盛り上がり始めた。私と姉は顔を見合わせた。2人ともお祝いの席から一刻も早く逃げ出したい衝動を堪えて、ただただ貼り付けたような愛想笑いをしているしかなかった。

私たちはただこれからの大学生活を祝ってほしかっただけなのに。できるかも分からない彼氏について盛り上がったり、まだまだ先だと思っていた結婚を期待されたりするのは、18歳の私たちには息苦しかった。

祖母たちの言葉は、私たちの幸せイコール結婚、だと決めつけているようにしか聞こえなかった。

勝手に設けられる結婚へのタイムリミット。祖母と話すのが嫌になる

20歳になり、成人のお祝いをした時に私たちに加えて標的になったのは、当時中学1年生の妹だった。

「3人の中で、誰が1番早く結婚するかな」
「案外、末っ子のR(妹の名前)じゃない?」

妹の結婚は流石に気が早すぎるでしょ、と思った。でも妹の心配をしていると、次は私たちに爆弾が放たれた。

「あなた達のお母さんは19歳で妊娠しているし、叔母も25歳で結婚したから、あと5年くらいであなた達も結婚するかもしれないわねぇ~」

いやいや、勝手にタイムリミットを設けないでくれ... …。

「あと5年で結婚って言われても、彼氏すらいないんだって!」と言ったけど案外できるかもよ、とその場の空気で流されてしまった。意思に反して周りの期待だけがどんどん大きくなっていく。私たちの声は押しつぶされてしまった。

大学生活4年目の今、都会で一人暮らしをしている私や姉の元に度々電話をくれる祖父母。電話で「無事でやってるよ」と近況を報告するのだが、その電話ですらも取るのが怖くなる時がある。

なぜなら、電話の時は決まっておばあちゃんたちから「あなたたちが結婚して孫の顔見るまでは死ねない。長生きするからね」と言われるからだ。

祖母の願いは分かったうえで、自分の幸せは自分で決めていく

特に、父方のおばあちゃんは最近よく体調を崩して、入退院を繰り返している。そんな状態のおばあちゃんから言われるもんだから、「まだ彼氏すらいないよ。無理だよ」とは思いつつも、その願いを叶えてあげられないんじゃないかと、申し訳ない気持ちにさせられる。
感じる必要もない罪悪感を抱いてしまうのは、この言葉が私の中で呪いのように染みついてしまったからだろう。

でも、これだけははっきりしている。
私たちは、どちらも自分の幸せを「結婚」に求めたりしていないし、求める必要もない。いずれ結婚するかもしれないし、家庭を持って幸せだと感じる未来もあるだろう。

だが、その時はその時なのだ。”今は”学業やアルバイト、都会での一人暮らしや友達との交流などといった大学生活を楽しむことができて十分幸せだし、将来についても各々ビジョンがあり、結婚はまだ視野に入れていない。

だから、おばあちゃん達との会話に「結婚」という話題が出るたびに、私たちは苦しい。
言われ始めた当初は、愛想笑いをしながら話を合わせた。その言葉にうんざりしてあからさまに不機嫌な態度を取ったこともあった。

今は、感情が麻痺したかのように無表情と、「そうだね」と言うだけでその場を切り抜けるようにしている。

いい加減、「結婚イコール幸せ」という型に私たちを無理やり押し込まないで。