私は、自分の居場所が欲しかった。独りが怖くて、誰かの傍に居たくて必死だった。それが悪いことであっても、どうでも良かった。そして自分を見失い、大事な家族を裏切った。
目標はなく、ただ自由になりたくて大学進学を機に始めた一人暮らし
私は大学進学を機に、実家を出て一人暮らしを始めた。
なぜ、一人暮らしを選んだのか。目標は特にない。適当に、ただ自由になりたくて、本当にそれだけの理由で家を出たのだと思う。
私は小学4年生の頃から高校まで剣道を習っていた。この世で1番嫌いだった。嫌いで嫌いで嫌いだった。きつい、暑い、怒られる、毎日その繰り返し。私はとにかく甘ちゃんで、気持ちが弱くて、楽をする方法だけ考えるのが得意で、高校までの9年間、ひたすら逃げる方法を探し続けた。
部活に遅れる為に、生徒会、課外活動、授業外の勉強会にも参加した。周りから見れば、やる気に満ちた優秀な生徒だったのだろう。成績もそこそこ良くて、勉強熱心で……。でも私にとってそれは、全部剣道から逃げる為の手段で、自慢できるものは何も無かった。
そしてやっと、自分の意思で、自分の生き方を決めることが出来るチャンスがやってきた。やっと解放される。自由になれる。そう思った。私は、家を出た。
しかし、今まで甘ちゃん人間で生きてきて、目標も頑張る覚悟も何もない、ただ逃げるだけの人生を送ってきた私が、一人で頑張れるはずがなかった。
誰も居ない、何も知らない、怖くて、寂しくて、どうしていいか分からない。
「俺が居るから」。甘い言葉について行き、自分を完全に見失った
そんな時、ある男性に出会った。簡単に言えば、いわゆる「不良」ってやつで、優しい、甘い言葉で私のところにやってきた。
「俺が居るから」。私は何の躊躇いもなく、その人について行った。やっと独りじゃなくなる。ただそれが嬉しくて、そしていつしか好きになった。
学校に行かず、遊びまくった。カラオケに行って、パチンコに行って、街をふらついて、たばこも吸った。お酒も飲んだ。私はこの人がいないと生きていけない。私は完全に自分を見失っていた。どこかでは分かっていた。こんなことしても何の意味も無いこと。でもどうしようもなかった。独りになりたくなかったから。
大学で○○を頑張るんだ!と、こじつけで語った夢を信じ、両親は何百万という学費を払ってくれた。「好きなようにしなさい」そう言って送り出してくれた。
「いつでも味方だからね」って支えてくれるお母さん。
真っ黒になって仕事から帰ってくるお父さん。
私は親の想いを踏みにじった。両親は私のために、ボロボロになるまで働いてくれていた。それなのに……。気づいたときには半年が経っていて、どうしていいか分からなくて、死にたいと思った。後悔しても戻ることは出来ない。
「今から変わればいいじゃん」。狂った針を戻してくれた姉の言葉
そんな私を変えてくれたのは、姉だった。私には双子の姉が居る。生まれたときから一緒で、学校も高校までずっと一緒だった。私の生活にはいつも姉が居て、私は姉にべったりだった。姉はそれを心配していた。こいつは一人で生きていけるのか、毎日そう言っていた。
案の定、私は道を踏み外した。それを知った姉は私を怒った。怒って、キレて、そして最後に応援してくれた。今から変わればいいじゃん。そう言ってくれた。姉の言葉が私の狂った針を戻してくれた。
姉は、勉強にもサークルにもアルバイトにも一生懸命で、努力家で、社交的で、とにかく私とは真反対だった。毎日輝いていた。私が落ち込んでいるときは、外に連れ出してくれた。1番に話を聞いてくれた。私は初めて心の底から変わりたいと思った。弱虫な自分を変えたいと思った。姉みたいに一生懸命になりたいと思った。家族に、姉に、感謝の気持ちを伝えたい。
私は今年の3月、夢を見つけた。農業高校で培った技術を生かして、自分の牧場を持ち、酪農を営むこと。搾った牛乳から、ヨーグルトやパン、お菓子を作って販売すること。それを食べた人が笑顔になってくれること。動物たちを触りに子どもたちが足を運んでくれること。教育ファームとして牧場をみんなに広めたい。そう思った。
私は、本気になろうと思う。変わるために努力する。そしていつか、「頑張ったね」ってお父さんとお母さんが笑ってくれたらいいな。