私の人生で、化粧品にかけたお金は一番無駄だったと、アラサーになった今感じている。
「化粧で女の子は変われる」に魅了され、初めて買ったアイシャドウ
私が初めてメイクをしたのは多分中学生のとき。ドラッグストアで悩みに悩んで、少ない小遣いでアイシャドウを買って、ドキドキしながら帰宅した。
化粧品を買おうと思った理由は、ファッション雑誌の影響だった。母親は化粧をあまりしない人だったので、母親の姿を見て買おうと思ったのではない。ファッション雑誌のメイク特集を見て、私は信じてアイシャドウを買ったのだった。
「化粧で女の子は変われる」というキャッチコピーを。一重がコンプレックスだった私は、これで生まれ変われるのだと信じていた。
家でドキドキしながら鏡の前に座った。かわいいパッケージを開けて、初めてのアイシャドウを瞼に乗せた。
結果、私は何も変わらなかった。鏡の前にいたのは、5分前と変わらない、一重まぶたの中学生だった。なんだかすごくガッカリした。
雑誌では「アイシャドウを重ね塗りしてグラデを作ればデカ目に」「一重でもぱっちりアイに大変身」などという文言が並んでおり、載っているモデルさんたちも実際かわいくなっていたのに、私は何も変わらなかったからだ。
変われない自分には原因がある。少ないお小遣いでメイク用品を揃えた
原因を考えたときに、2つ可能性が思い浮かんだ。
まずメイク初心者であること。きれいに見えるようにメイクするには、塗り方や付ける量などを練習する必要があるのではないか?
次に持っている化粧品の数。確かに雑誌のメイク特集では、アイメイクが一番重要視されていたけれど、みんなベースメイクからきっちりやっていた。私が持っている化粧品と言えば、今日初めて買ったアイシャドウだけであった。これでは雑誌のモデルさんと同じに仕上がらないのも致し方ないと納得した。
そう思った私は、少ないお小遣いで買うファッション雑誌を増やし、日々メイクの練習を行い、同時並行で数か月かけてベースメイク用品からアイメイク用品まで、一式を揃えるに至った。
その間はメイクすることはしなかった。勉強期間だと自分に言い聞かせていたけれど、今思えば、もう一度メイクして「結局変わらない自分」にショックを受けるのを恐れていただけだったのかもしれない。
雑誌でメイクの勉強もして、メイク用品も一通り揃えて、万全の体制の私は今度こそ変われると信じて鏡の前に座った。慎重に、慎重に、時間をかけてメイクした。
化粧下地を塗るためにも専用のパフを買ってきて、それを使って塗った。数か月前に買ったアイシャドウも、付属のチップで塗るのではなく、ブラシを使って塗った。前は変わらなかったけれど、これだけ時間をかけ勉強し、小遣いをはたいて化粧品を揃えたからには変われると思った。
鏡の前には変われなかった私。メイクの迷走は社会人になっても続いた
1時間後、鏡の前にはガタガタの不自然な二重で、下瞼に飛び散ったマスカラの液が点々と見える中学生が座っていた。私はまた変わることができなかったようだった。
この現実がアイシャドウのときよりひどくショックで、私はすぐにクレンジングで顔を洗った。
しばらくして、フルメイクが初めてだったので上手くいかなかっただけなのかもと思い、週末のたびに練習メイクをするようになった。
しかし変わらず、けばけばしい中学生になるだけ。高校生のときもメイクは禁止だったので週末だけメイクをしてみるも、中学生のときと変わりがない。
この間も「マスカラが合わないのかな」「アイシャドウのカラーが暗すぎるのかも」などと、原因を色々考えて小遣いから化粧品を買い足して行った。でも、結局「メイクで変わる」経験がないままに卒業を迎えた。
社会人になってもメイクの迷走は続いていて、ここで「使っている化粧品が安いからいけないのかな」と思った。
社会人になって小遣いよりも段違いに使えるお金が増えていたので、私はデパートの化粧品売り場に足を運んで化粧品を買うようになった。ドラッグストアの化粧品の数倍の値段がするけれど、パッケージは本当にかわいいし、タッチアップで店員さんに「かわいい」と言われると嬉しかった。
でもその嬉しさのピークはお会計で、家で使ってみると結局ドラッグストアの化粧品を使ったのと何も変わらない自分がいた。それが悔しくて、一時期デパート通いを続けハイブランドの化粧品を買いまわっていた。
肌が悪いのかとも思い、エステに通ったりもした。しかしエステの広告のような効果が表れることはなかった。
海外旅行で気付いた、メイクをしても変わらない事実と化粧品の必要性
そんな化粧への興味を失った出来事があった。3週間ほど海外一人旅へ出かけたことである。
行先が発展途上国で暑い地域だったので、化粧品を持っていかないことにしたのだ。発展途上国で道路も未整備なところが多いため、荷物はバックパックで行かなければならず、持ち物を極力減らす必要に迫られ、暑い地域なので化粧をしても全部流れてしまうと思った。
最初はノーメイクで過ごすことに緊張にも似た気持ちを覚えてけれど、しばらくしたら何も感じなくなった。
それに、行った国は気候もあると思うが、しっかりメイクをしている女性をあまり見かけることはなく、それでもみんな笑顔が美しいと思った。それと同時に、現地で撮った写真に写った自分の姿を見て「私はメイクしてもしなくても顔は変わらない」という事実に気付いた。
「『メイクで女の子は変われる』というのは万人に当てはまるなんてことはない、化粧品メーカーとファッション雑誌の売り文句である。練習も必要かもしれないが、一番重要なのは生まれ持った顔の作り」という残酷で、それでも本当のことに、私は初めて化粧品を買ってから約10年経ってやっと気が付いたのだ。
ここで「今までの一番の無駄遣いは化粧品だと思う」という、最初の結論に戻る。たくさんお金を使って、自分の胸を刺す真理を手に入れたのだ。
帰国してまた仕事が始まると、最低限のメイクはするものの、デパートで化粧品を買いたいという気持ちは完全になくなった。
そしてやってきたコロナの時代。マスク生活になり、完全にメイクをしなくなった。
それでも変わらず仕事もプライベートも回っている。アフターコロナの時代が来ても、たぶん私はしっかりメイクをすることはないだろう。