私は生まれたときからずっと右目が一重で左目が二重だ。

右から見ると、少しつり上がった一重に下向きまつ毛が愁いを醸し出すクールな顔。
左から見ると、はっきり二重にパキっと上向きまつ毛が広がるキュートな顔。

右の瞼はグラデーションが綺麗に表現できるから、ラメたっぷりのグレーやブルーのアイシャドウを丁寧に塗り重ねる。
左の瞼はまつ毛を綺麗に表現できるから、マットなベージュのアイシャドウを薄く塗り、ビューラーとマスカラで思いっきりまつ毛を天へ伸ばしてコームで丁寧に仕上げる。

三面鏡を覗き込み、全く異なる印象の3人が並ぶ瞬間、私は飛びっきりの笑顔になる。

正面から見ると、完全に左右非対称な顔。
[左右対称が美人の条件]というワードを美容雑誌や美容アプリのコラムで何度も目にしたし、ちぐはぐに思う人がいるかもしれないけれど、私は私の顔が大好きだ。

でも、はじめから大好きだったわけではない。思春期に、周りの顔をじっくり見て、自分の顔をじっくり見て、自分の心をじっくり見ることで、私はこの顔が大好きになった。

自分の顔が、へんてこで最悪な顔に思えた子どもの頃。メイクをしても違和感が残った

幼い頃はまぶたの線の数なんて全く気にしてなかったが、小学生高学年あたりでクラスで1番人気者の女の子のぱっちり二重を眺めるうちに、自分の顔がへんてこに思えてきた。

両目がぱっちり二重なあの子が羨ましい。
でもそう言うと、両目が一重の子から決まって「あなたは左目が二重なだけまだマシじゃん」と言われた。
私は二重を羨ましいと思うことも許されないのか。羨ましがられる二重にも、羨ましがる一重にも属せない私の顔は、どっちつかずの最悪な顔だ。

二重を一重には出来ないけど、一重を二重にすることは出来ると知ったのは、中学2年生の春だった。
周りの友達が二重のりを使い始め、私も親に頼み込んで近所のドラッグストアで二重のりを買ってきてもらった。右目だけに薄く塗りぱたぱたと手であおいで乾かす。途端に皮膚が赤くなり、熱くて痒くてすぐに冷水とティッシュでごしごしと擦り取った。

二重のりが肌に合わないなら絆創膏が良いらしいとメイク上手な先輩に教えてもらい、今度は小さく切った絆創膏を貼ってみた。なんだか目の上を蜂に刺された人みたいになり、何度練習しても違和感が残る仕上がりにしかならなかった。

私はそもそも一重が嫌いなんだっけ?三面鏡をまじまじと眺めた

全然うまくいかない。
肌が弱いのも不器用なのも悔しいけど、そもそも左右でこんなに違う目を持つ自分の顔が何よりも憎い。
悲しくて悔しくて絆創膏の箱をぐしゃぐしゃに潰した。

絆創膏に罪はないと思い直し箱を伸ばして少し気分が落ち着いた頃、改めて目の前の三面鏡をまじまじと眺めた。

美容雑誌も美容アプリのコラムも[ぱっちり二重が最強!のっぺり一重はいかに綺麗な二重に近づけるか!]というノウハウばかり紹介していたから、私は自然と可哀想な一重の右目をどうにかして優秀な二重の左目のようにすべきだと考えていた。

でも、よく見たら私の右目もなかなか悪くない気がしてきた。

斜め上へつり上がる形に沿って白鳥の羽のようなまつ毛がすらりと並び、小さな潤みが繊細に揺れる切れ長の綺麗な瞳。

あれ、そもそも私って一重が嫌いなんだっけ?

私の顔は最高な顔。一重が可哀想なんて、思い込みに過ぎなかった

一重のメイク術を探してみると、意外と楽しめることに気づいた。
まぶたが折り込まれないために自由なキャンバスとしてメイクすることが出来る。
そして、一重の綺麗な芸能人も沢山いる。私の右目が可哀想なんて、ただの思い込みに過ぎなかった。

二重を一重には出来ないけど、一重を二重にすることは出来る。

そのことを、昔の私は一重が二重のりを使って二重にするための理由としか思っていなかった。
でも、[一重を楽しめるのは一重のアドバンテージ]という意味も見出だせることに、私は気づいた。

そして、[一重と二重の両方を同時に楽しめるのが私のアドバンテージになる]ということに気づいてしまった。

私の顔は、どちらも楽しめる最高な顔じゃないか!

ずっと、可哀想な右目を優秀な左目の形に近づけるメイクしかしたことがなかった私は、その日から左右別々のメイクに挑戦するようになった。
最初はちぐはぐで違和感しかなかったが、色々なパターンを練習するうちに左右が異なってもバランスをとることが出来るようになった。
髪型も、バランスをとれるヘアメイクだけでなく、右半分を特に魅せたい日と左半分を特に魅せたい日で、それぞれ調整出来るようになった。

プライベートタイムの私は、3つの顔に笑みを浮かべて意気揚々と街を闊歩する。

クールな私
キュートな私
アシンメトリーな私

どの私も最高に素敵だ。

左右対称が美人の条件?
いや、誰がなんと言おうと私は私のアドバンテージを心の底から愛していく。