夏が来て、汗をかくと、あなたのことが思い出されます。
中学時代、「花。きれいだな」と私の育てた花を褒めてくれた彼
中学校時代。私は、華道部で園芸をしていました。額に汗して働き、花の成長を手助けしていました。そんな私は、少し奥のグラウンドで大きな声を出して、私以上に汗びっしょりになりながら気にもせず野球に励んでいたあなたは、私にとって「すごい人」でありました。
先に声をかけてきたのは、あなたの方でした。「毎日すごいよな。高林」。いつの間にか、苗字を知られていて驚いた私をよそにあなたは、「花。きれいだな」と私の育てた花を褒めてくれました。
私は、嬉しくなって、「この子たちが、頑張ったから咲いたの。野球の疲れを癒してくれるといいな」と言うと、あなたは少し照れながら、「いつもみてるよ。あっ。花のことだから。変な意味じゃないから」と言った。私が「わかっているよ。何時でもこの子たちを見に来てね」と言った。
そうして、あなたは野球終わりに花壇の方へ来て。私と話すことが多くなり、そこからお互い惹かれ合うのに時間はかかりませんでした。「好き」と言ったのはどちらの方でしたか、あまり覚えていません。ただ、「甲子園まで行ったら付き合いたい」と言ったあなたの言葉はよく覚えています。
私の花壇が誰かに荒らされてしまい、あなたは手伝ってくれたね
「甲子園」。全国の球児たちが目指す夢の舞台。あなたは、「体格が優れているわけではないが、技術でカバーしてみせる」と言っていました。「きっとできるよ」なんて半端なことは、私には言えませんでした。だから、「そっか。私は、ここで見てるから」そう言いました。
しかし、私の花壇が誰かに荒らされてしまい。花を褒めてくれたあなたも、なんと声をかければいいのやらわからず、ただ、花の亡骸を家に運ぶのを手伝ってくれましたね。あのときの私には、そうしてくれるのが1番良かったかもしれません。
そこから、何があったのかはよく覚えておりませんが、私たちは自然に破局を迎えました。私が母で子供が花だとすると、父親はあなただったのかもしれません。そうやってできていた愛の結晶が壊れてしまったことで、私たちを繋ぎ合わせていたものが壊れたのでしょう。
バラバラになって、私は、あなたの心を思いやれなくて。あなたは、私の心を掴むことができなくて。ただ、一時の音を発する風鈴のような、刹那的な恋でした。風鈴は、夏が過ぎると役目を果たし、倉庫の中へ仕舞われるように。
彼と別れた今、今年の甲子園には「あなたの名前」を見て思うこと
別れて何年かたった今。あなたは、違う高校へ進学して、ますます遠い距離に離れてしまいました。今年の夏の甲子園は、新型コロナウイルスの中で行われるものですが、そんな最中でもあなたは、技術を磨いていたのですね。あなたの名前とあなたの出身高校がしっかりと刻まれておりました。
今は、どんな人を甲子園へと連れていくのですか。頑張り屋さんのあなたの彼女なら良い人でしょう。末永く続くことをお祈りしています。
でも、ほんの少しだけ、私の約束だけでも思っていてくださいな。私の心の中に風鈴は音は鳴らずとも、仕舞われているのですから。