まっすぐに、指揮者だけを見つめる。後ろで鳴り響くティンパニのソロ。ホール全体の空気がさらに張り詰めていくのを感じながら、流れるように進んでいくメロディーの川に合流するため深く息継ぎをした。
私たちを照らす舞台照明が眩しい。それは光だけでなく、まるで太陽のように熱も伝えてくる。私の額から汗が滴り落ちた。

すでに自由曲のクライマックスにさしかかった演奏は、疾走感を失うことなく最後の一音に向かっていく。先生の指揮に力が入る。自然に部員全員の呼吸も合わさり、私たちは一つになって全てのエネルギーを出し尽くさんと夢中で演奏を続けた。
吹奏楽コンクールという大舞台。与えられた演奏時間は、課題曲と自由曲を合わせて12分以内。たった12分間のために、私たちは青春を捧げる。

どんなに大変な練習も、金賞を勝ち取るという目標があるから頑張れる

忘れもしない、中学1年生の夏。全日本吹奏楽コンクールの本番に向けて、入部した直後からハードな練習に加えられる1年生。その中に私もいた。
小学校の頃から吹奏楽部に所属していたが、練習メニューの量や練習にかける時間はその頃とは比べ物にならない。
ゴールド金賞や次の大会への出場権が懸かっているため、先輩や顧問の先生から厳しくしごかれる毎日。上下関係を重んじる吹奏楽部で、1年生のうちはほぼ修行のような日々を送った。先輩よりも先に移動や準備をしたり、演奏技術の面で足を引っ張らないように先輩の倍以上の練習をこなしたりと必死だった。
大変だったが、決して苦ではなかった。ずっと憧れてきた先輩たちとゴールド金賞を勝ち取りたいという目標があったおかげで、いくらでも耐えられたし頑張れた。

夏休みに入ってからも練習は続く。朝早くから学校に向かい、椅子や指揮台、譜面台などをセッティングするのが1年生の役目。
当時の私は、誰よりも早く音楽室に向かい、セッティングに取り掛かっていた。セッティングが終われば、自分の楽器を取り出し、基礎メニューからおこなう。自分以外まだ誰も来ていない音楽室に、私が奏でる音が鳴り響いていたのが最高に気持ちよかったことを覚えている。一刻も早く楽器に触れたい、そして練習して上手になりたい。その一心だった。
毎日何時間もの時間を費やし、土日も学校へ行って、部活がオフの日ですら家に楽器を持ち帰って練習していた。

舞台上で味わった快感は、今までの苦労も理不尽も、全て吹き飛ばした

1年生のときに初めて出場した全日本吹奏楽コンクール。先輩から理不尽なことで怒られたり、顧問の厳しい指導に何度も心が折れそうになったが、冒頭で述べたあの舞台上での体験のおかげでその全てが吹き飛んだ。
「私はこの快感を味わうために何ヶ月も努力してきたんだ」とはっきり感じた。
憧れの先輩たちと挑んだコンクールでは、惜しくも金賞には届かなかった。先輩たちの悔し涙に、私もつられて涙が頬を伝う。やり直しの効かない一発勝負。

毎日ひたすら、部活のことだけを考えていたあの頃。すべてに全力でぶつかっていた自分。
今はどこか諦め癖がついてしまって、つらくても何か一つの目標のためだけに熱くなっていたあの頃とは変わってしまった。
20歳を超え、自分の成長を感じる部分もある一方、あのときのがむしゃらさを失ってしまったことだけは寂しい。