私は高校生の時、毎日バッチリメイクをしていた。
メイクがキマらなくて遅刻したり、タクシー通学をするのは日常茶飯事。

メイクはコンプレックスを隠すため。「可愛い」と自分に言い聞かせた

私にはコンプレックスがあった。
自称奥二重のほぼ一重の目と、ガタガタの歯並び。自分の笑顔は下品だとずっと思っていた。周りには可愛い友達がたくさんいて、少し怖かった。
私は工業高校出身で、周りはほとんど男子。「あの子は可愛い」とかそうじゃないとかいう話題が飛び交う。見た目で価値をつけられているような気がして、過剰に自分の外見が気になりだしたのがその頃だった。
私はそのコンプレックスを隠すために、メイクをした。
アイプチで幅広の二重を作って、ナチュラルなつけまつげで自然さを出しながら、14.5mmの黒目が大きく見えるカラコンを入れた。
憧れだったタレ目顔を作って、「私は可愛い」と、そう言い聞かせるしかなかった。
私はメイクを落とした素の顔を友達にも見せたことがなかった。「こんな顔だったんだ」って思われることがすごく怖かったから。だからお泊まりする時も、こっそりお風呂上がりにアイプチをして、カラコンを入れた。
もしも彼氏できて結婚したら、死ぬまで自分が先に起きてメイクをして、旦那さんが寝てからお風呂に入ってメイクを落とすんだって、決めてた。

「騙されたな」。素の顔になった私に、男子は笑いながら言った

そんな私にとって最悪のイベントが修学旅行。でもその時はもう、自分を隠しているのも同じくらい嫌だったから、素の顔を見せてみるチャンスかもしれないと思った。
だからお風呂上がりにアイプチもカラコンもしなかった。荒れていたお肌もそのままで。
みんなが集まる部屋に行ったけど、私は怖くて誰の顔も見れず下を向いていた。近くにいた男子に声をかけられ、顔を上げると、横にいたヤンキー系の男子が私の顔を見て、「やばいやん」と言った。そのあとに小さい声で、「騙されたな」と周りの男子に笑いながら言ったのを聞いて、最初は一瞬意味がわからなかったけど、多分彼は「メイクをしていた私の顔に騙されていた。本当はあの顔じゃなかったんだ」という意味で言ったんだろう。それくらい私にも分かった。

その日から私は「ブス」とからかわれたり、「前髪で一重隠してる?」といじられるようになって、自分の顔を恨み続けた。
でもやっぱり、毎日メイクで自分を隠す日常も、鏡で顔ばかり気にして自分の粗探ししている時間も嫌いだったから、勇気を出してカラコンもアイプチもやめた。
メイクをしていない日はずっと生きた心地がしない。喋ることも人に会うことも嫌になる。でも、それに慣れないともう一生このメイクで自分を隠し続ける日々から卒業できないかもしれないと思ったから。

素の顔でいる今の私が言われる言葉は「ブス」ではなく「笑顔が素敵」

私の素の顔は、少し眠たそうな目をしていて、笑うと八重歯がよく見えて、ほっぺたがポコっと出る。高校を卒業してからは、その素の顔で社会に出た。その顔で初対面の人に出会った。初めはすごく怖かったけど、解放された気持ちにもなってすごく生きやすかった。何より自分のコンプレックスを隠さず人に会えたことで、大人になれたような感じがしたからだと思う。
私は社会に出てから「ブス」なんて一度も言われなかった。一番のコンプレックスだった一重のことを言われたこともない。
その代わり、こんな言葉をよくかけられた。
「笑顔が素敵」
退職した職場でもらった色紙や手紙のどこを見てもそう書いてある。

「そうか、私の笑顔は素敵に見えてるんだ」
自分のコンプレックスは消えないし、受け入れることも時間がかかるけど、私は笑顔が素敵なんだ。だったら、もっとずっと笑っていよう。
そうやって私はメイクすること以上に自分が笑うことを大事にして生きるようになった。
見た目は何も変わっていないのに、その時から、少しずつ私の気持ちが晴れていくのが分かった。