「汗と青春」と聞くと、中高生の部活のイメージが強いかもしれない。でも、私の中高時代はそんな感じではなかった。
中学生の時はほぼ帰宅部だったし、高校時代も入っていたのがとてもゆるい文化部で、本格的に部活をしていたという感覚がないのだ。
そんな私にとっての「汗と青春」の思い出は、大学時代の部活にある。

友達もおらず、ギターもバンドも初。ビビりだけど固い決意で軽音部へ

あるバンドをきっかけにいつの間にか邦ロックが大好きになっていた私は、憧れのあまり大学で軽音部に入ってギターをすると心に決めていた。人見知りでビビりのくせに、1人で新入生歓迎会に乗り込んでいく程度には、決心がかたかったらしい。
友達もいない。ギターもバンドも初めて。おまけに周りは筋金入りの音楽好き。
最初はついていけるのか不安しかなかったが、かなり適当だけどフレンドリーな先輩のおかげもあり、軽音部で念願のギターデビューを果たすことになった。

軽音部といえば、やはりその活動の中心はライブである。学祭から内輪のライブまで、年間を通してそれなりにライブの予定があり、ライブ毎に好きにバンドを組み替える。
そんな中で、大舞台に立つという意味では学祭が最大の活躍の場といえるが、部の一大イベントといえば、夏の合宿だった。

初めての合宿、錚々たる先輩たちとのバンド。その思い出は汗まみれ

合宿では、夏休みの1週間ぐらい、山奥にあるスタジオとステージ付きの宿泊施設にみんなで籠る。そこで個人練習とバンド練習を繰り返し、最終日に集大成のステージライブをする。
内輪とはいえ、日数や人数からいってかなり大規模なイベントだ。部員一同が顔を合わせるので、特に新入部員にとっては、接点のなかった先輩たちとバンドを組む絶好の機会。
私も例に漏れず、もはや雲の上の存在といってもいいようなすごすぎる先輩たちとバンドを組むことになった。

初めての合宿。錚々たる先輩たちとのバンド。その思い出は汗まみれだ。
夏のスタジオは暑い。防音のため、窓はなくドアも開け放つことができない。クーラーがついていたかもしれないが、はっきり覚えていない程度には役に立っていない。機材と人が押し込められた狭い密室のスタジオ。そんな所で歌ったり弾いたりするもんだから、なかなかの熱気だ。
特に、先輩たちは練習でも激しく動き回りながら演奏するので汗だくである。そんな先輩の姿を見ながら、私もなんとかしがみつこうと、やはり汗かきながら練習する。

汗とタバコに満ちた合宿は不思議と嫌じゃなく、なんというか愛おしい

そんな練習の合間には、時おりバーベキューや花火なんかのレクリエーションもはさむ。練習であんなに真剣だった先輩たちは、子どものようにきゃっきゃとはしゃぎまわっていて、結局ここでも汗だく。何だかめちゃくちゃな人たちだが、バンドも遊びも全力なのだ。
そして、さすがというのか、軽音部には喫煙者が多かった。気が付いたら先輩集団がその辺でタバコを吸っているというのはよくあること。汗だくになりながら練習しては一服して、また練習してちょっと遊んで練習して……の繰り返し。一週間、そんな感じで進んでいく。

そういうわけで、合宿は汗とタバコのにおいに満ちていた。
汗とタバコなんて普通に考えると最悪の組み合わせな気がするが、不思議と嫌な気分がしなかった。それどころか、そのにおいは私の脳内では、先輩たちの真剣に、でも楽しそうに、とにかく全力でバンドをやったりふざけたりしている姿と直結している。
だから、なんというか、「愛おしい」という言葉すら当てはまりそうな気がした。

今でもふと思い出して「ふふ」とほほえましい気分になる大切な思い出

今となっては、これも淡い思い出。あの時の先輩たちも、今はただの汗臭いおじさんになっているかもしれないし、まだどこかで全力疾走しているのかもしれない。それももはや想像の域を出ないということに、一抹の寂しさを感じる。

あの日々が自分にものすごく大きな影響を及ぼしたというようなことではないし、自分の人生の中でいえばちょっとした寄り道みたいなものだ。
ただ、「あんなことがあったなぁ」なんて、今でもふとした時に思い出して「ふふ」とほほえましい気分になれる。そんなかけがえのない思い出だ。
だから、ちょっと汗臭いけれど、いつまでも大切に心にしまっておきたいと思う。