私は、人生において憧れとしている人が何人もいる。
何人もいる、というと軸がブレているようにも思えるが、それぞれの憧れている人の人物像を状況によって使い分けながら、自分の中に宿しているのだ。
落ち込んでいる時なら明るい人を、弱気な時なら強い人を宿す。その中でも、出会ってから何度も振り返り、年に1度はその人を宿したモード全開にならなくては気が済まないほどの人がいる。
それは、あるテレビドラマのヒロインだ。

アキは目指したい人物像。魂のようにスッと身体に入ってくる

2004年にテレビ放送され、「メイビー?」という言葉を流行らせたことで有名な「プライド」は、当初、小学生だった私には大人なストーリーだった。
主人公の“ハル”はアイスホッケーのトップ選手として活躍しつつ、端正なルックスで女性にチヤホヤされるも、競技に集中するため、という理由で女性とはゲーム感覚で恋愛する。
そんな彼の前に現れた“アキ”という女性が彼の冷めた心を温めながら柔らかく解していく。私はそのヒロイン、“アキ”のことが憧れなのだ。

ハルはアキのことを「古き良き時代の女」と言う。放送当初、小学生の私にはその意味がイマイチ理解できなかったが、響きのカッコよさに憧れていた。その後、高校を卒業したくらいの頃に改めて見返してみたとき、心臓を素手で直接強く掴まれるような痛烈な感覚に陥った。

主人公のハルは実際にアキの魅力にひしひしと惹かれていくわけだが、出会って間もなくして彼女の魅力をこう表現している。
「バッテリーを充電させてくれるような女」

そして、彼は電池が枯れるまで戦ったら必ずそんな女のところに帰る、と伝えている。私にはその表現がアキそのものであり、目指したい人物像として、魂のようにスッと身体に入り、頭や心を占領するものとなった。

自分の悩みも他人の悩みも、納得したうえで言葉を吐き出すアキ

彼女は一見とても柔らかく、繊細で上品なのだが、決して脆くはないのだ。独りで立つ強さを持ち合わせている古き良き時代の女。ハルに対しても時に厳しい言葉をかけ、大切な人を守りたい時は敵に独りで立ち向かい、理不尽なことは許さない芯の強さを感じた時、彼女のことを信頼する気持ちがぐんぐん上昇する。

彼女のセリフに「私はいつまでも自分のことを好きでいたいの。強くて、偉くて、かわいい女でいたいの。寂しさなんかに負けない、目を逸らさない。それが私のプライドなの」といったものがある。

「自分のことを好きでいたい」というのは、自分に正直でいたいということだろう。彼女は自分が納得することを決して諦めず、自分の悩みだけでなく、他人の悩みも自分が納得したうえでの言葉を心から吐き出す。それは、物事を身体全体で細かく咀嚼し、責任を持った言葉にするということ。

弱さを見せることを許せて、心を通わせられるような人に

幾多の場所で発言することが安易な今、心に常に置いておきたいことのひとつだ。
彼女のセリフから紐解いていくと、「バッテリーを充電させてくれる」という表現がより一層の壮大さを増してチクッと刺さる。疲れた時、弱っている時にパワーをくれる人のことを大いに信頼していたいのだ。大切な人にとって、弱さを見せることを許せて、言葉がなくても心を通わせられるような存在になりたい、そう思わせてくれた。

彼女に憧れて彼女を自分に宿すとき、私は自分に正直になれる。それは、落ち込んでいる時でも、焦った心を落ち着かせたい時でも、どんな時にでも軸として持っていたい。

私にとっての“憧れの人”とは、世界にたったひとりの自分自身と、真向に向き合い続けることに疲れてしまった時、別の視点として自分を癒してくれるものだ。
それが身近な人でも、実在しない人でも、世界を広げてくれる術となる。