就活を終えたのはもう八年も前の事になる。短大に入学し、私は一年も経たないうちに就職活動を始めた。大規模な就職説明会に友人と参加したり、学校では就職課で掲示を見る日々だった。
私たち日本人のほとんどは高校、あるいは大学を卒業する前に就活を始める。それは、学校を卒業したら働くというのが常識だからだ。
働かなければお金は稼げない。お金がなければ食事は出来ないし、服も買えない。生きていくのは困難だ。働いて税金を納めなければ社会のお荷物と認識され、非難される。

必要とされる場所を求めて、嘘で固めた履歴書を何度も書いた

二年生になった春、もう就職先が決まったと髪を黄色に染めて登校してきたクラスメイト。彼女はいわゆる「陽キャ」と呼ばれるやつだ。彼女が纏うオーラは自信に満ち溢れたゴールドだった。ハキハキと話す彼女がすぐに内定をもらえたのも納得だった。
Uターン就職を希望していた私は、地元の事務職の求人を見つけては履歴書を送った。秀でた才もなく、勉強も熱心に励んだ訳でもないから、何とか人並みに出来る事を大袈裟に書いた。
早く、ゴールドのオーラを纏う彼女みたいに内定を貰えないかな。そんな希望を胸に抱えながら、頭では彼女と並べるような人間ではない事を理解していて、絶望した。
私たちは働く場所、必要とされる場所を求めて、嘘で固めた履歴書を何度も書く。何が求められているかもわからぬまま、箱に自分自身を詰め込んだ。お洒落な包装紙とリボンをかけて、面接官へと渡すのだ。
まず、彼らはプレゼントの見た目で好きな物を選ぶ。受け取らなかったプレゼントは、もう手に入れることが出来ない。
すぐに内定した彼女の包装紙はピカピカのゴールドだった。だから直ぐに欲しいと言ってもらえたのだと思う。

夢がないから就活しているのに。思考が停止した作文テーマ

私はどうだろう。包装紙さえ百均で買ったチープな物だった気がする。取り繕う事も出来なくて「つまらない物ですが」と言って、受け取ってもらえるのを待っていた。
髪は黒く染め、前髪は下ろさずに分ける。リクルートスーツを身に纏って、面接官に対面する。個性を殺し、みんな同じ格好で社会の常識に従った。
それでも同じ格好をした私たちから、企業は数人を選んでいく。一枚の履歴書と十五分程度の面接、よくわからない小論文などから、一緒に働く人を見極める。
とある企業の試験で「あなたの夢」というテーマで作文を書いた。私は会場でうなだれた。
夢がないからここにいるのだ。何を試されているのかわからぬまま、どうにか原稿用紙を埋めた。未だに私はこの答えがわからずにいる。
「一生懸命働き、この企業を引っ張っていくこと」だろうか。「素敵な人と結婚してお洒落な一戸建てに住む」でも良かったのか。
「夢」というあまりに茫漠とした言葉に、思考が停止してしまった。

プレゼントの包装紙でしか選んでもらえない採用試験でいいの?

履歴書や面接の正解とは何だろうか。不採用だった時、筆記試験の点数が低かったのか、受け応えが下手だからか、資格がないからか、顔が好みじゃないからか。誰も教えてはくれない。
「いらない」と言われた私たちは、正解が解らぬまま次の場所へ走るしかなかった。
クラスの半数が内定者になった秋、それ以外の者からは焦燥感が滲み出ていた。新卒のタイムリミットは卒業まで。なかなか選ばれない余り物の私は、一層の劣等感で押し潰されそうだった。
十月中旬、有難いことに内定を頂いた。私は今もその会社で働いていて、仕事ぶりをそれなりに評価してもらっている。どれだけ真面目に一生懸命働けるとしても、それを証明できる過去がなければ、就活では受け入れてはもらえない。
でも、一緒に働いて初めてプレゼントの中身がどれだけ良い物かわかる気がする。
包装紙でしか選んでもらえない採用試験が、箱の中身を評価してもらえるものになればと、私は願っている。