28歳の夏、初めて就活をした。
大学時代は専門職を目指して試験勉強しかしなかったので、履歴書の書き方さえ知らなかった。
そんな私が、社会人7年目で転職を考え始めた。

「この仕事を続けて幸せなのだろうか?」。疑問が浮かんでしまった

職場では、そろそろ中堅というポジションで少しずつ主任やリーダーを任されるようになってきた。
それに伴い、本来やりたかった仕事からは徐々に遠ざかっていき、残業時間は増えていった。
仕事をしない年長者のフォローを強いられ、頭の中では常に「なんで私が」の思考がぐるぐる回っていた。
しなくてもいいはずの苦労ばかりが増えてやるせなかった。
そんな毎日の中、ふっと疑問が浮かんでしまった。
「これから先、この仕事を続けて幸せに暮らせるのだろうか?」
一度湧いてきた気持ちは簡単に抑えられなくなっていた。
「転職しよう」
この結論に至るまで、長くはかからなかった。
安定した今の職業から抜け出す怖さはあるが、一度きりの人生、チャレンジしてみてもいいかもしれない。
そうと決めてからの自分の行動力には我ながら驚いた。
夫に伝え、転職サイトに登録し、ハローワークに行き、無料のキャリア相談を受け、履歴書や職務経歴書の書き方の研究をした。
夫は、私の決断に戸惑いながらも「君が決めたことなら」と協力してくれた。 

履歴書に並ぶ現職のための資格に、辞めるのが少しもったいなく感じる

毎日サイトで求人情報を眺めるうちに、気になる会社を見つけた。
勤務地、就業時間、仕事内容、休みの日数、どれも言うことなしだ。給料が今より低めだが、この際未経験で転職できるなら、と応募した。
早速翌週に面接となり、緊張しながら履歴書を書き始めた。
サイトで書き方の指南を見ながら、これまでの職務の成果をアピールできるよう心を込めて書いた。
持っている資格の欄には、今の仕事のために学生時代にとった資格がずらりと並んだ。この会社に応募するのには全く必要ない資格ばかりだ。
教授には「資格は一通り持っていないと試験に落ちる」と言われたので取得したが、実際に就職したら周りの先輩達は全部揃っていない人のほうが多かった。
だからちょっとだけ凄い人だったのだ、私は。
そんなことを思ったら、少しだけ辞めるのがもったいなく感じてきた。
それでも、職務経歴書には、新卒から今日までの仕事の中でも、次の仕事でアピールできそうなことばかりを選んで書いた。

気取った言葉に似合う仕事ではないが、どれも事実だ。
書ける中でも1番丁寧な字で書いた。自信作の履歴書ができた。
面接では、この履歴書が絶賛された。
「こんな履歴書は初めて見た。これまで前職一筋で頑張ってきたことがわかる。一つのことを集中してやり続けることは素晴らしいことだ」との評価をいただいた。
社長との面接は和やかに進み、じっくり時間をかけて社内案内や仕事内容の説明もしてくださった。

社長の丁寧な対応が、自分自身のキャリアを客観的に見直すきっかけに

だけど、落ちた。
面接の受け答えは上々だと思ったが、私は求める人材と違ったようだ。
勉強の試験や入学試験と違って「こんな人がほしい」に一致するかどうかが採用の鍵なのだ。
だから私が駄目なのではなくて、たまたまここには合わなかったのだ。
珍しくネガティブにならずそう思えたのは、不合格の私にも丁寧に応対し、肯定し続けてくれたその会社の社長のおかげだ。
たった2時間弱の面接兼社内案内だったが、かけがえのない出会いになった。

他の会社にも応募しようか迷ったが、何となくそんな気になれず、相変わらず求人情報ばかり見ている。
ちょうど異動のタイミングであることもあり、転職する気持ちで転属することにした。
キャリアチェンジしたい気持ちはまだありながらも、今の仕事への未練も捨てきれずにいる。もしかしたらそんな迷いも、社長には見透かされていたのかもしれない。
とりあえずのところは、新天地での仕事を経験してみてから転職を検討することになるだろう。
結局、今回の転職は叶わなかったが、自分自身のキャリアを客観的に見直すことができた。
やっぱり今の仕事が好きだということや、専門職を手放した私には「未経験、スキルなし、アラサー」しか残らない厳しさも知った。
覚悟をもって転職活動をしていたつもりだが、今ある生活を手放す怖さを改めて実感した。
いつかまた転職を決意する時が来るかもしれない。
同じことの繰り返しのようにも見えるが、今回動き回った経験はこれからの働き方の糧になるだろう。
ひと夏の思い出と学びだった。