大学4年生のある日、私はとある企業で面接を受けた。
猛暑の中、早起きしてバスを乗り継いで向かった。
バス停から企業までは距離があり、道に迷いながらやっとの思いで到着することができた。
入り口のインターホンを押すと、作業着を着た年配の男性が出てきた。
私が丁寧に挨拶すると笑顔で返してくれた。
部屋へ通されて待っていると、少ししてその男性が戻ってきて面接が始まった。
履歴書を手渡すと「字がとてもきれいだね」と言いながら、男性は穏やかな表情をしていた。
「ありがとうございます」と澄ました顔で応えながら、私は心の中でガッツポーズをしていた。

○○大学なんだね。最初とまったく違う様子を見せる男性に感じた不安

以前、祖母から「字の美しさには人間性が出る」と聞いたことがある。
大学の就活対策でもそのことに触れられていた。企業の人が履歴書を見比べたとき、字がきれいな方に目がいく。

そして、それは有利に働くこともあるということを知った。
実際に、別の面接で私だけ面接官から字の上手さを褒められたことがあった。
それだけが理由ではないと思うが、その面接は無事に通過することができた。
今回もいけると確信を持ちつつ、ハキハキと笑顔で志望理由と自己PRを応えた。
「はい、ありがとう」
そう言っている男性からは笑顔が消えていた。

「犬屋敷さんは○○大学なんだね」
最初のときとはまったく違う様子に、私は少し不安になっていた。
すると、男性は私にこう言った。
「申し訳ないけど、採用はできないかな」
受け答えがダメだったのだろうかと思ったそのときだった。
「色白で病弱に見えるんだよね」
私は一瞬、キョトンとしてしまった。

これまでの努力は?私は「大学の名前」で落とされたことに気付いた

今まで色んな企業で面接を受けてきたが、外見について言われたことはなかった。
私は大学名が理由で落とされたのだと気づいた。
私が通っていたのは宗教系の大学だった。
それが理由で選考を受けさせてもらえなかったり、面接で嫌なことを言われたりしている同期が何人もいるのを知っていた。
そういえば、男性は履歴書を眺めながら、途中で少し眉をひそめていた。
「まあ、これは預かっておくから」
そう言われて、私は帰るよう促されたのだった。

午後の講義のために大学へ向かいながら、私は先ほどの面接のことを思い出していた。
大学名で落とされたことよりも、嘘の理由として外見のことを言われて腹が立っていた。
私は、内面はもちろんのこと、外見も美しくなりたいと考えていた。
肌の白さもメイクの仕方も、大学進学が決まってからずっとしてきた努力の結晶だった。
血色がよく見えるように、講座を受けたり母にアドバイスをもらったりしながら、就活向きのメイクを覚えた。
今までの努力をすべて否定されたような気がして悔しかった。

「社会に出たら学歴なんて関係ない」祖母が言った言葉の意味を知った

その日の夜、電話で祖母にすべて話した。
「こんな可愛い孫にそんなこと言うなんて」と祖母は怒った様子だったが、一呼吸おいて静かに言った。
「みちるちゃんの努力は、ばあさんが一番よく知ってるからね」
電話越しに頷いていると、祖母はこう続けて言った。
「社会に出たら学歴なんて関係ないんだよ。努力で人はいくらでも成長できるんだから」

それから少しして、現在の勤務先から内定をもらった。
仕事をする中で、祖母の言葉の意味が分かった。
私よりも有名な大学を出ていたり、ITの知識が豊富な社員は多い。
しかし、彼らの中には居眠りをしたり問題を起こしたりして、信用を失ってしまっている人が何人もいた。
逆に、学歴が低く知識量が少なくても、努力をして成果を出した人もいる。

私自身も後者で、努力次第で人は変われるのだと実感している。
あの企業が今どうなっているのかは分からない。
ただ、学歴や外見ではなく、人間性を見て採用する企業に変わっていてほしい。
そして、私自身も相手の人間性をよく見て判断できる人間になりたいと思う。