ピルを飲み始めて、まる2年が経った。
毎月毎月わたしの意志とは関係なく襲ってくる、お腹を鈍く殴られたような痛みから解放され。予定外の妊娠に怯えることなく、パートナーと夜の営みをたのしめるようにもなった。

だけど、なぜだろう。わたしは、なにかを失ってしまったような気がしている。
快適で安心な生活と引き換えに。わたしは、一体なにを失ってしまったのかな。

自分を自分の身で守るために、ピル外来へ。なんだ、こんなに簡単なのか

わたしがピルを飲み始めたのは、新しい異性の恋人が出来たからだった。
コンドームをつけてくれないような、そんな暴力的な人では、もちろんない。だけど、心のどこかで、もし妊娠してしまったらどうしようと、怯える自分がいた。
ふたりのことなのに、避妊に関しては能動的に動けないオンナである自分が、悔しかったんだと思う。
だからわたしは、自分で自分の身を守ることにした。

早速「大阪 ピル」で検索する。わたしが受診したのは、ピル外来というピルを処方する専門の受付がある病院で、予算や症状に合わせて数多あるピルの中から適切なものを処方してくれるところだった。良くも悪くも淡白で、なんでもかんでも根掘り葉掘り聞かれないという点では、快適な病院だと思う。
特に大きな課題もなく、わたしはピルを手に入れることが出来た。
なんだ、こんなに簡単なのか。

初めの2週間は、吐き気に襲われた。実際に吐くことはなかったけど、ずっと気持ち悪くて、ずっと食欲がなかった。
なんで、わたしだけ。そう思わずにはいられなかった。
そこを越えれば、なんてことはない。毎日、同じ時間に飲み忘れることなく服用すれば良いだけ。たったこれだけで「妊娠したかも」とカレンダーと睨めっこして怯えることもなくなるのだから。

なんと快適なんだろう。もっと早く大人が教えてくれれば良かったのに

高校生まで、水泳一筋でやってきた。あの頃のわたしに、教えてあげたい。こんなに便利なものがあるのなら、もっと早く大人たちが教えてくれれば良かったのに。
そう思わずにはいられなかった。
月に数日訪れる、練習が出来ない日も。全てをかけて備えてきた、大会当日も。理不尽に絶望することはなかっただろうに。
痛みに耐え、後始末にため息した。そんな日々とも、おさらばだ。
なんと快適なのだろう。お腹が痛くない。腰もだるくない。蒸れて痒くなることもない。服が汚れて慌てふためく必要もない。
当たり前に、快適な毎日。当たり前に、普通の生活。

これ以上ない毎日のはずなのに、なにかが足りない気がする

ピルを飲み始めて半年くらい経ったころ、消退出血がなくなってしまった。医師によると、そういう人も稀にいるらしく、子宮などに問題はないとのことだった。
それから1年半、わたしの股は一度も血を流してはいない。あんなに鬱陶しく、煩わしく感じていたのに。なんだろう、なにかが足りない気がする。

とても快適で、とても安心で、これ以上ない毎日のはずなのに。
わたしは、オンナとして課せられた“なにか”を、失ってしまったのかもしれない。
ひとまずは、暫しの別れだ。
さようなら、わたしの生理。