デッサンに没頭していた毎日を、予備校で訓練したあの高校時代を思い出す。
どんな時も、私を成長させてくれたのは、親でも学校でも、高校の先生でもクラスメイトでもなく、私自身だった。
あの日に戻れるのなら私は、孤独に闘ってきた自分に、
「愛しているよ」
と伝えて抱きしめたい。
田舎の高校の授業では物足りず、長期休暇は東京の予備校へ足を運んだ
物心がついた時、私の将来の夢は画家だった。
その中で、東京藝術大学という目標が生まれた。
そんな目標を抱きながら小学校、中学校を卒業して、高校は地元の中でも専門的な美術を教えてもらえる学校を選んだ。
だが、そこはやはり田舎の高校授業。
私は物足りず、夏休みと冬休みを全て使い、藝大受験に専念した東京の予備校の実技講習を受けることにした。
そこには求める授業があり、同じ目線の受験生が沢山いた。
毎日毎日描くだけの日々。
絵のことだけを考える人しかいない世界。
予備校講師の無駄のない指導。
お互いがお互いを高め合える環境。
心の底から興奮した。
けれども、長期休暇が終わるといつも、田舎に帰って意気消沈した。
ここには求める授業も同じ目標のライバルもいない。早く東京に戻りたい。
私の居場所はここではない。
東京で得たものは、一般受験用の授業と近場の大学を受験する同級生、田舎の学校のぬるい空気で全て削がれ、次第に描けなくなってしまうのだった。
それでも私は孤独に、真冬の青森でストーブを焚き、夜中まで受験課題のモチーフ台を組みながら、指先の感覚がなくなるまで描き続けた。
金じゃない、大学のブランドじゃない。日本の最高峰にしか、行きたくない
3年生になる。
学校の担任からは進路相談がある度に、
「君なら武蔵・多摩の推薦を取れる。藝大にこだわる必要はない」
そう言われた。
父も母も、
「お金のことは気にしないから、私立でもいいのよ。先生が言うなら、そうしなさい」
そればかりだ。
違う!!!
金じゃない!大学のブランドじゃない!
私は、私みたいな半端な人間でも行ける大学に行きたいわけじゃないんだ!
何のために今もこうやって1人で描き続けてると思うんだ。
私はそういう場所に行ったら、田舎のこの生温い空気が後ろ髪を引っ張るように、絶対今の私のような半端で生温い人たちの方に逃げてしまう。
そんなんだったら大学なんて行かなくていい!
働いた方がマシだ!
日本の最高峰にしか、行きたくないんだ……。
なんで、何でみんな私の気持ちがわからないの……。
なんて、親にだって先生にだって、伝えてはみたものの、私の言うことをみんな分かってくれなかった。
父親にも担任にもプライドを捨てろと言われ、私のプライドはくだらなくないと足掻いていた頃。
本当は、私はそんなに間違っているのかって苦悩していた。
本当の私の声は誰にも届かなかった。
本当の私を誰も愛してくれなかった。
けれども、そのプライドがあったから、私は今も本当にやりたいことだけを続けていられる。
あの時、誇りを失わなかった自分に凄く感謝している
結局受験は諦めた。
そして今は働いているけれども、あなたは本当に強いって、かっこいいって、あの時、大人の言葉を信じないで、負けないで、誇りを失わなかった自分に凄く感謝している。
今の私はだいぶ丸くなった。
人への感謝も、悩みの解決の仕方も、責任の持ち方もわかったからこそ、夢の見方がより明確になった。
つまり、
「私はまた、あなたに憧れて絵を描き始めた。あなたの苦しみを、実力を、決して無駄にしない」
あの日に戻れるのなら。
過去の私に、私はまた、夢へ歩き出したのだと、そう伝えたい。