就活。その定義は一体なんだろう。
リクルートスーツを着て、企業説明会に参加し、エントリーシートを送って、筆記試験に面接を経て内定……。
それを「就活」と定義するのであれば、私は就活を経験することなく大学生活を終えた。
「就活」の定義から離れた楽団のオーディションは、理解されにくい
音楽大学に通っていた私は、プロの演奏家を目指していた。
おそらく同年代の皆が企業説明会に参加しはじめるころ、私はプロ楽団への応募書類……いわゆるエントリーシートのようなものを書いていた。
在学中、いくつかオーディションを受けた。市民楽団と違って、プロ楽団はお金が動く一企業。そこに入団するということは楽団に「就職」するということだ。
そう考えると、しっかり就活したはずなのだが……。
今でも「就活の思い出」と聞かれると、私はそもそも就活をしていたのか、胸を張って答えられない。
「就活どう?説明会行った?」
バイト先、地元の友人、親戚……音大生以外にそれを聞かれるのが、とても嫌だった。
「楽団のオーディション受けてるよ。普通の会社は受けてないけど」
「……就活しないの?」
最初は自分の就活についてそれなりに説明していた気がする。でも、
「音楽ってお金もらえるの?」
「〇〇(市民楽団)みたいなところに入るの?」
そんな的外れなことばかり言われるうちに、真面目に答えることが面倒になった。
よく考えてみれば、プロになりたいとかオーディションだとか、理解出来ない方が正常なのだ。気が付いたときには「そうだね、してないかな」と適当に濁すようになっていた。
就活の話をしている時は、スクールカーストの中にいるような気分
「就活しないってことはニート?」
そんなふうに馬鹿にされても、否定も反論も出来なかった。もちろん、今すぐ殴ってやりたいほどに腹は立ったが。
プロ楽団のオーディションなんて絶対受かる保証もない、というか落ちる確率の方がずっと高い。しかも毎年必ずオーディションを受けられるとも限らず、空席が出来た時にしかチャンスは巡ってこない。もちろん、落ちれば無職だ。
だが、ニートと言われるのは心外だ。そもそもそれは働く気のない人を指す言葉であって、私に向けるのは間違っている。そう思っても「落ちれば無職」が胸に引っかかって何も言えなかった。
就活の話をしている時は、女子高生のスクールカーストの中にいるような気分だった。
「落ちれば無職」は一般企業だろうが公務員だろうが同じはずなのに、合否よりも「どこを受けているか」が重要で、それによって優劣が付けられているようだった。
世間から見て「夢を追っているニート」の私は、きっとカースト最下位だろう。
というか、私の就活は最下位どころか『就活』とは呼んではもらえないのだ。
「就活どう?」という大学4年生の定型文が怖くて仕方ない
プロへの夢は叶えたい。でも最下位の自分はなんだか惨めで恥ずかしい。
「就活どう?」という大学4年生の定型文が怖くて仕方なかった。
就活の話題で持ち切りだったバイト先は特に居心地が悪くて、話を振られたくないがためにわざとシフトを減らしたりしていた。
それくらい、理解されない自分の就活が完全にコンプレックスだった。
就職活動。今でもその定義が私には分からない。
リクルートスーツは着ていなかったけれど、私も皆と同じように、自分の憧れた仕事へ向かって必死だった。
それでも私は、就活をしていなかったのだろうか。