「次に生まれ変わるのなら、どんな人生が良いですか?」ときかれたら、私は決まってこう答える。
「この人生がいい」と。

職場の問題すべての元凶は私と言われ、自己嫌悪の蟻地獄に落ちた

ちょうど1ヶ月前。私は職場の人間関係のトラブルにより、心身ともに瀕死の状態だった。
私は、良くも悪くも自分に正直で、自分の納得のいかないことや、筋の通っていないことはしない、と決めている。先日、職場で起きた筋が通っていない理由で仕事を押し付けられたことに対して、上司の更に上の人間に抗議をした。
その結果、何故か、職場で起こっている問題すべての元凶が私であると上司に詰められ、何を言ってもわがままだとか生意気だとか言われ、自己嫌悪の深い沼に陥っていた。
自分なんかいないほうがいいのではないか。
みんな、本当は自分のことを煙たがっていて、だけどそれでも大人の対応として嫌悪感を表に出していないのではないか。
自己嫌悪の蟻地獄に心も体も乗っ取られ、食事が喉を通らなくなった。
職場に一週間いけなくなった。
息を吸っただけでもえずき、もうボロボロだった。

「待ってたんだよ」。先輩の言葉にうつむくと、道にシミができていた

辛くても苦しくても明日は平等にやってきて、出勤しなければならない日が来てしまった。
天気は憎たらしいほどの爽やかな秋晴れ。
電車の中で何度ため息をついたのかわからない。
職場のビルの前に交差点がある。
ビルを見たくなくて、足元の点字ブロックを見つめる。
みんなが自分のことを煙たがっているのではないか、という疑心暗鬼はまだ離れない。
信号が青に変わった瞬間、横から肩をぽんと叩かれた。私の斜め前のデスクに座っている先輩だった。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
「体調悪いって聞いていたけど大丈夫?」
心配そうに私の顔を覗き込む先輩。
「あ、はい」
「ちょっと、肩周り痩せたんじゃない?ちゃんとご飯食べてる?」
何も答えられなかった。みんな私のことを嫌いだと思っていたから。私なんか出勤してもただの迷惑だと思っていたから。
「あ、はい。一応」
先輩と話しながらビルのエントランスをくぐる。
「良かった。ずっと待ってたんだよ」
「え?」
「私だけじゃない。うちのチームのみんな、あなたのこと待ってたんだよ」
うつむいたらアスファルトにシミができていた。
いつになく高い空は清々しい快晴。雨は降っていない。
私が泣いていたのだ。

先輩に全てを話すと固まっていた心がほぐれ、涙が解き放たれていく

固く固く固まっていた心が、先輩の優しい言葉でほぐれていく。今まで誰にも見せられずに我慢していた涙が解き放たれていく。
背中に触れた大きくて温かな手。
「大丈夫だった?」
「大丈夫じゃなかったです」
私は先輩にすべてを話した。上司に言われたこと、食事ができていないこと。自己嫌悪のこと。
「そっか、辛かったね。あなたは間違っていない。だけど、間違っていることが一つだけある。それはあなたは誰にも嫌われてなんかない。あなたが、日頃から仲間のことを大切にしていることはわかっているし、いつも明るくて面白くてみんな、あなたの存在に救われているんだよ。だからみんな今日はあなたが出勤してきてくれてとっても嬉しかったの。前も、私が苦しいとき、ご飯誘ってくれたおかげですごく救われたんだよ」
私のために選んでくれた優しい言葉の数々がじんわり胸に染みた。
ああ、こんな私でも待っていてくれる人がいる。こんなに励ましてくれる人がいる。私も捨てたもんじゃない。

大事に思える人たちに、大事と思ってもらえる。私が私で良かった

翌日、私の隣の席に座っているまた別の先輩が、紙袋を私の机の上においた。中身はおかきだった。
「これ、好きって聞いたから。なにか食べられるようになってほしくて。好きなものなら食べられるかなって思って。カレー味もあったんだけど刺激物だしな、と思ってね。少しでも口に入れてね。食べられるようになったら飲みに行こうね」
優しさで泣きそうになった。思わず頂いた紙袋を抱きしめた。
この方も私のためにお店に足を運んで、お金を出して買ってくれて、私のことを思ってくれている。
「ありがとう。本当にありがとうございます」
「先月、私がマネージャーに怒られて落ち込んでいたとき、駅で二時間話聞いてくれたでしょ?それですっごく楽になったんだ。持ちつ持たれつだよ」
誰に何を言われようとどう思われようと、私には私のために一生懸命になってくれる人がいる。私のことを好きだと言ってくれる人がいる。
大事だと思える人がいて、その人達にも同じように大事だと思ってもらえる。
誰かがそばにいてくれて、誰かのそばにいることができる。
私が、私で良かった。