84歳になるお婆ちゃんと文通をする、それがわたしの今の「ふるさと」との繋がり方だ。
きっかけは旅先から送った「手紙」だった。わたしのお婆ちゃんは、スマートフォンもLINEも絵文字も使いこなす、スーパーお婆ちゃんだ。
最近は孫のすすめでインスタも始めた。そんな風に簡単にSNSで繋がれるお婆ちゃんと、あえて文通をしている。
コロナ禍で会いたいと思った人に会えない、そんな世界になってしまった
わたしのふるさとは島根県だ。自然豊かで、一面山に囲まれ、その山を見るだけで安心する、そんな町だ。
わたしは大学生の頃に関東に上京し、現在は社会人5年目になる。この1年で世界は目まぐるしく変わった。
会いたいと思った人に会えない、そんな世界になってしまった。変わった世界で、どうやって大切な人と繋がっていけばいいのか、誰もが「人との繋がり方」を考えた1年だったと思う。
SNSは簡単に繋がれて、声も聞けて顔も見れてとても便利だ。私も会えなくなってから、1人暮らしのお婆ちゃんが心配で、毎週必ず電話をした。ときにはテレビ電話もしたり、LINEで日常のたわいもない写真を送りあったりしていた。
旅先からお婆ちゃんに手紙を送ったら、お婆ちゃんはとても喜んでくれた
2020年8月、わたしは転職をして、有休消化中にGotoトラベルを利用し、1人で北海道を一周した。そのときお婆ちゃんに「お土産でなにを送って欲しい?」と聞くと、「『手紙』が欲しい」と言われた。
「北海道には、美味しいお菓子や食べ物がたくさんあるよ?」と言ったが、「旅先から書いた『手紙』が欲しい。綺麗な絵はがきを選んで送ってくれたらもっと嬉しい」と言われた。旅先でも毎日のように、LINEをして、写真も送っているのに、なんで手紙なんだろうとも思った。
しかし言われた通り、知床で自然豊かな写真の絵はがきを選び、数年ぶりに手紙を書いた。
普段のLINEでは何も考えず文字を送っているのに、いざ手紙になると何を書けばいいか分からず、悩み、今思えば、とても薄っぺらい内容を書いたと思う(笑)。
それなのにお婆ちゃんは本当に喜んだ。「ありがとう!綺麗な写真だね~!消印のスタンプも知床だね!旅先で書いてくれたんだね!部屋に飾るね!本当にありがとう!!」と。興奮気味で電話がかかってきて、LINEでもスタンプが連打で送られてきた(笑)。
手紙を読むと、ふるさとの風景やお婆ちゃんの生活を自然と想像できる
しばらくして、お婆ちゃんから島根の果物と一緒に、手紙が送られてきた。可愛い朝顔の便箋で、とても達筆な文字だった。
お婆ちゃんの文字を久しぶりに見た気がした。庭に朝顔が咲いたのかな、と思った。ちょっとだけ茶色いシミが便箋についていていたのは、大好きな珈琲を飲みながら書いていたときのシミかもしれない。
そんな風に、どんな場面でどんな思いで書いてくれたのか、ふるさとの風景やふるさとでのお婆ちゃんの生活を自然と想像していた。これが、わたしがお婆ちゃんと毎月必ず文通をするきっかけとなった。
わたしは今もまだ、お婆ちゃんとこの1年半は会えていない。きっと、ふるさとに帰りたくても帰れない、同じような辛い思いをしている人がたくさんいると思う。
けれどこの世界だからこそ、わたしは毎月必ず「ふるさと」へ、「手紙」を書く。「繋がりたい大切な人」が喜んでくれる顔を想像しながら、便箋を選んで、手紙に添えるちょっとしたお菓子を選んで、その人を思って文を書いて、切手を買ってポストに入れる。そんな、あえて手間がかかる「手紙」で「ふるさと」を側に感じられると知ったからだ。
1日の終わりにポストを開けたとき、「ふるさと」に住む、「繋がりたい大切な人」からの手紙が入っていたときの胸のときめきを。部屋に入るまで封を開けるのが待てず、歩きながら封を開けてしまうこの気持ちを。温もりのある字を読むことで、「ふるさと」が感じられるこの気持ちを。ぜひ、みなさんにも体験してほしい。