思えば昔から、「結婚」というものに対して、私は割とネガティブな印象を抱いていた。
理由はいくつかある。
個人でなく家同士の関わりになるのが億劫だと思う事。子供を欲しいと思っていない事。責任が伴い、身軽でなくなりそうな事。離婚こそしなかったが父母が不仲な時期を近くで見ていた事。異性婚が認められていない事。

同棲中の恋人と結婚についてどう思っているのか、話し合ってみると

その中でも一番ネガティブに感じていたのは苗字を変える事だ。
現行の結婚制度では、どちらかが苗字を変えなければならない。
2015年の厚生労働省の調査では、苗字を変えた男性の比率は4%のみだった。苗字を変えるのはどちらでも良いのに、女性が苗字を変えることの方が圧倒的に多い。
選択的夫婦別姓の話も出てはいるが、最新の裁判でも結婚の際にどちらかが苗字を変えるのは合憲であるとされ、結局話は進んでいない。夫婦が同じ苗字であるべきと主張する人たちの大半の理由は「家族の絆が薄れるから」らしい。そんな馬鹿な話ある?と思う。
納得していないので、結婚することに対して尚更気が進まなかった。

もちろん結婚して相手の苗字になることに憧れる人間や、苗字を変えることに対して抵抗がない人間がいるのも知っている。

私の苗字は全然珍しくなく平凡で、全国では9番目に多い苗字らしい。
それでも、28年間この苗字で生きてきて、愛着がある。珍しさは関係ない。
可能なら私は一生この苗字でいたい。けどそれは別に相手の苗字を無理にでも変えたいということではない。

そんな私だが、先日、同棲している恋人と結婚についてどう思っているのかの話し合いをした。2年近く付き合っていて、同棲してもう少しで1年経つ。「そういう頃合い」だった。

実は恋人と同棲を始める頃に、結婚に対してあまり意欲的でないことは伝えてある。恋人は結婚も視野に入れていたとのことだった。開始時点で私たちの結婚に対する認識にはズレがあったが、一緒に生活していく中で考えていこう、ということで一旦話は中断していた。
1年間一緒に生活してきて、恋人のことはどんどん好きになっている。陳腐な言葉だが、日毎に愛が深まっていると感じる。壮絶な喧嘩も何回かしたが、それでもこの人と生きていきたいと思う。
でも、現行の結婚制度には納得していない。

変わらず「結婚したい」と言ってくれる人の願いを叶えたくて

今の状態のまま同棲状態を続ける、もしくは苗字を変えないで出来る事実婚を提案をしたりした。
一般的に結婚とは法律婚を指す。
事実婚は婚姻届を出さないので苗字を変える必要がないが、その分夫婦である事の証明をするのが難しい事があり、それに伴ってデメリットもある。何か理由があって苗字を変えたくない二人が事実婚をしているパターンは少なくない。
私は事実婚とはどんなものか、そしてそれによるメリット、デメリットを恋人に伝えた。
また、選択的夫婦別姓の導入を待っても良いが、正直いつになるかは分からないことも伝えた。

何度か話し合い、「君の考えは分かるし、乗り気じゃないのも知ってるから無理強いはしたくない。それでも君と結婚したい」と声を震わせながらやっと絞り出した恋人を見て、私の中でストンと落ちてきた結論があった。
同棲開始してから1年間、色々な事があったが、それでも変わらず私と結婚したいと言ってくれるこの人の願いを叶えたい。

苗字に関しては、恋人が自分が変えると申し出てくれた。
たとえ自分が変えないとしても、相手に苗字を変えさせる事に、正直申し訳なさや制度に対するやるせなさがあるが、恋人の優しさに甘えることにした。
今後選択的夫婦別姓が導入され、恋人が希望するなら苗字を戻してもらおうと思う。

それぞれの願いを叶え、相手を思ってこの形の結婚を選んだ

そんな事があって、私たちは結婚する事になった。
私たちは、夜景の見える上品なレストランや、甘い雰囲気のホテルのスイートルームで婚約を決めたわけではない。

平日の夜、少し散らかったリビングで、コーヒーを飲みながら、泣きそうになったり、手を握ったりしながらようやく出した結論だ。ロマンチックさのかけらもないが、私たちはこれで良いのだと思う。
結婚に対してのネガティブなイメージが消えたわけではない。
それでも、私は恋人の結婚したいという願いを、恋人は私の苗字を変えたくないと言う願いを、それぞれ叶えたいと相手を思ってこの形の結婚を選んだのだ。私たちはこれで良い。

もちろん不安もある。
でもこれからも何かある度に、相手のことを慮って、自分の気持ちもしっかり伝えて、そうして進む道を選んで二人で生きていくのだ。
納得できない事があっても話し合って二人で折り合いをつけて生きていくのだ。