ロマンチックなクリスマスの夜。改札前での彼の囁き

私はクリスマスとクリスマスイブが嫌いだ。この世からなくなって欲しいと思うくらいに大嫌いだ。
今まではサンタさんから貰うプレゼントのために部屋の掃除をしたり、日頃の行いも良くしてきた。すごく楽しみにしていた行事だった。
そう、元々は好きな祝日で良い思い出しかない。

それが変わってしまったのは大学生になってからである。クリスマスに誰かと過ごす時間を確保したのはその時が初めてで、彼とのデートは楽しかった……途中までは。
聖なる夜に美味しいものを食べて、駅に向かう道。いつもよりロマンチックで恋人繋ぎをした手を離したくないと名残惜しい気持ちが増していた。駅に着いたところで「今日は楽しかった。ありがとう!」と私が伝えると、彼が「喜んでもらえて良かった」と少し照れた顔で答える。

最後に「おやすみ」と言って改札に向かおうとすると、私の腕を掴んで止めて抱きしめてきた。いきなりの事で驚いたけれど、漫画やドラマでは、この後に甘い囁きが聴ける展開になる。そういった作品に影響を受けすぎたせいで、期待しすぎていた私が馬鹿だったんだと思う。今でも思い出すと恥ずかしくなる。
彼は抱きしめたまま、「あのさ……」と切り出す。

「お互い、お世辞にも美男美女とは言えないくらいブスだけど、これからも楽しく仲良くしたいと思ってるから」と、彼からの甘い囁きが私の耳に伝えられた。
せっかく楽しくデートを過したのに最後の最後で台無しにされた。色んな意味で素敵な思い出になったので、今でも忘れない。

照れ隠しで言ったであろう言葉は「呪縛」のように心に残っている

あれから5年が経つ。もうすぐクリスマスを迎える。ハロウィンが終わった辺りからお店全体がクリスマス仕様になってBGMも、ラブソングが増える。それを聴くのと飾りを見るのが気疲れしてしまうので、あんまり外に出たくない。
今も彼から言われた言葉は、呪縛になっていて楽しそうに歩くカップルを直視できないのが悩みになっている。
自分の見た目と心が醜いのは自覚していたし、確かにブスなのはブスだ。けれど、大好きな恋人から言われてしまうと虚しくなる。

照れ隠しで私に言ったのだと思うが、愛おしいとは思えなかった。私は気持ちが冷めて正解だったのか。
クリスマスデートの帰りにあのまま喧嘩に発展させて、別れを告げれば楽に慣れたかもしれない。あとから別れ話を切り出すと相手を混乱させてしまうし、何がキッカケなのかを分からせるためには我慢なんてしなくてよかったんだ。
私の我慢強さと意地っ張りな部分は、こうして祟りを招く。彼の言葉が頭から離れなくて自己嫌悪から抜け出せなくなっている。
クリスマスの祝日には何も罪はない。罪はないけれど、クリスマスを好きで楽しみにしていた純粋な私はもうどこにもいない。
カレンダーでは祝日扱いにならないが、気持ち的に祝日とカウントするのが、私の楽しみになってしまった。

私が欲しいのは「休暇」。ロマンチックよりも、自分の楽しみにしたい

仕事のモチベーションとして、クリスマスを味わっていたいのかもしれない。家で美味しいものを食べて、欲しかった雑貨を買いに行く。そういう時間をクリスマス休暇として設けて欲しい。
例えば、22日から25日までの間で1日だけクリスマス休暇を取る制度。所帯を持つ人は1日と半日の休暇が許される。リフレッシュ休暇のうちに入っていればいいのに、と我儘しか出てこない。

私の周りには心が綺麗で幸せそうな笑顔を振りまく人が多い。人一倍、劣等感が強い私は、いつも惨めになる。バレンタインやホワイトデーよりもクリスマスの季節が大嫌いなのだ。日本らしい大晦日だけで良い。
世界各国が不思議がるのは、日本が色んな神を信仰しているのと外国のイベントを取り入れているところにあると思う。特別な日に張り切るのではなく、静かにクラシックを聞きながらケーキを食べるだけでいいとさえ、思ってしまう。街を着飾って賑やかに過ごすより、落ち着いた時間を過ごす方が心は癒える。
今の私の価値観が世間とどこまでズレているかは知らないが、イベントの度に飲み会へ誘われたら断ってはいけないというルールが薄れつつある今こそ、絶好のチャンスなのだと思いたい。