クリスマスと聞いて思い出すのは夜の闇の中でひとり、ただただクリスマスソングを口ずさんでいたことだ。
クリスマスイルミネーションのはずれ。もう少し歩いていくと地元の文化財的建物があるところ。夏場は色とりどりのバラが咲くちょっとした庭園なのだが、件の時期はただ雪が降り積もるばかりで何もない。
足元に雪の白、虚空には夜の黒それしかない都会の道端で、ただひとりクリスマスソングを口ずさんでいた。
客観的に見ればただの変人の部類に入るだろう。なにかしらその日の用事をこなしたあとの帰り道だったと思うが、細かいことは覚えていない。ちょくちょく歌っていたということだけが記憶ある。
クリスマスソングに歌われる白と黒の世界に、自分だけが存在している
白い雪と夜の黒が、自分以外の外の世界のノイズを吸い込んでくれるのが気持ちよかったのだと思う。少し遠いところを誰かが通りすがっても干渉されない。多分聞こえてもいないだろう。
クリスマスソングに歌われる世界に自分だけが存在している。現実の煩わしいことは何一つ今の私には関係がない。歌詞の中にある幸せでキラキラしているクリスマスを過ごしていると思い込むことができたのが、気持ちよかったのだと思う。
そのクリスマスソングというのは、とあるアプリゲームの曲である。男性アイドルもの。今どきあるあるな感じだ。
歌詞のシチュエーションは夜のクリスマスデート。彼氏視点の歌詞で、彼女が可愛くてクリスマスイルミネーションよりも輝いて見える。毎年ふたりずっと幸せでいたい。ざっくり捉えればそんな内容。
曲の雰囲気は金と銀にクリスマスカラーがキラキラしていて、ふわふわしていてピンク色の幸せがいっぱい。数多の女子をときめかせるには十分であろうスイートなイメージのものである。
それでいて甘すぎないのが大人に優しい。でもきっちりティーンにも刺してくる。かゆいところに手が届きまくるクリスマスソングだ。
クリスマスソングの世界に没入してしまえば、その世界のヒロイン
先に言っておこう。私自身、そんなスイートなクリスマスデートができる相手にめぐり合った経験は皆無である。なんならクリスマスに出かけるためにオシャレをして出かけようとした記憶もおぼろげである。ないかもしれない。
ましてや「愛し合う恋人と過ごすクリスマス」なんざファンタジーでしかないと思っている。アプリゲームもとい2次元に語られるような展開がリアルに存在するのか疑わしい。私が口ずさむクリスマスソングのような状況をリアルで経験したことがある人はいるのだろうか。
とにかく恋愛関係にダウナーでへそ曲がりな私でもそのクリスマスソングの世界に没入してしまえば、その世界のヒロインなのである。
その世界線には大好きで性格も顔も超イケメンでまっとうに働いている、でも平日のクリスマスの夜にデートできるような、愛し合う彼氏が存在しているのである。
きっとその世界線の彼氏は、私が事前にデートのために選んだ、おそらくロリータ系だけどデイリーユースできるまで落とし込んだ結構甘めテイストのアパレルブランドのレースとかフリルが可愛いワンピースを「可愛い」といってくれるし。
私自身も彼氏が選んでくれたプレゼントに喜んで、甘い言葉に素直に照れてみせるのだよ。
そしてふたりで「毎年2人で幸せなクリスマスを過ごしたい」「ずっと一緒にいたい」と穏やかな気持ちで思い合うのだろう。
雪と深い夜の闇が実現させてくれる、不可侵で幸せな一個人の妄想劇場
そんな不可侵で幸せな一個人の妄想劇場を、降り積もった雪とどこまでも深い夜の闇が実現させてくれていたのである。
実際には私の存在よりクリスマスイルミネーションの方がキラキラしているし、純粋に「君の方が綺麗だよ」なんていってくれるイケメン彼氏は存在しない。
それでもクリスマスの思い出と聞いたとき、「なんかあのクリスマスソングを口ずさんでいたとき」を思い出すのである。それがなぜなのかは自分でもよくわからないのだが。
それはさておきクリスマスの過ごし方として2次元脳内彼氏というのはなかなか平和な落としどころかもしれない。
本当に誰も傷つかない。リア充? パリピ? 知らんがな。
クリスマスに独り身でも強制的に仕事でも全て終わって一息ついたら、超優しい脳内彼氏と夢の時間にトリップ。素晴らしい。
というわけで今年のクリスマスはおうちで2次元に乾杯!