私をよく知る人ならば、私以上に普段他人を頼ることが苦手な人間は知らないと、十中八九答えるだろう。これはおそらく、世間体を何よりも重視する毒両親の影響だと自分では思っている。
個人的な問題で、人様に迷惑をかけてはいけない。助けを求めるなんて、弱いダメ人間のすることだ。
知らない間に、根深いところにそんな考えが刷り込まれていた。
そんな私でも、2回警察に助けを求めたことがある。それも、1ヶ月も間を開けずに。
精神を患う母は父を連夜暴行。我が家は暴君の恐怖政治に支配された
精神を患っていた母は、私が大学生の頃、父に連夜暴行を加え、罵声を浴びせていた時期がある。きっかけは、母の思い込みとも言える些細なことだったが、母にとってはそうではなかったらしいのと、適切な対処を怠った父のせいで、我が家は暴君の恐怖政治に支配されていた。
初めは父のみがターゲットだったが、何時間にもわたる連夜の騒音は私の睡眠にも少なくない影響を及ぼしていた。それでも、何ヶ月かは我慢してやり過ごしていた。
ある晩母は、パニック発作を起こしたと騒ぎ立て、自ら救急車を呼んで運ばれて行った(しかし数時間後にはけろっと帰宅)。身勝手な理由で、家族にも医療従事者にも迷惑をかけて平然とする母を見て、ついに私の中で堪忍袋の緒がブチ切れる音がした。
一番迷惑を被っているはずの父は、外に助けを求めるなどの対処をする気はさらさらなさそうだった。だったら、私が助けを求めるしかない。
翌日には、私は地元の警察署に向かっていた。おそるおそる「DVの相談をしたい」と伝えると、個室に通され、担当の女性相談員に事情を説明した。結論から言うと、丁寧に話は聞いてもらえたものの、私の期待に反して、母を逮捕することも家族に接近禁止令を出すこともしなかった。
いつも以上に激昂する母に命の危険を感じ、震える手で110番通報
必要になったときの証拠にと思い暴行の様子を一部撮影していたが、結局証拠を求められることもなく、「何かあったらすぐに110番通報するように。命に関わるようなことがあってからでは遅いから」のようなことを言われた。
少々肩透かしを食らったように感じながらも、警察署を後にした。
それから1ヶ月もしないある晩だった。
私が警察署に行ったことや実家を出ようとしていることが、父の不手際で母にばれたことで、いつにも増して母は激昂した。父を責め立て暴れ回る母は、手のつけようがなかった。
このときはさすがに、命の危険を感じた。
「何かあったらすぐに110番通報するように」。女性相談員のその言葉が私を後押しした。
「警察呼ぶから」
気付いたときには母の背中に向かってそう言い、私は自分のスマホに手を伸ばしていた。そのスマホを奪い取ろうと私に掴みかかる母を振り切り、震える手で110番にダイヤルした。何やら喚き立てる母の声を背景に、私はオペレータに状況と自宅住所を告げた。
真夜中にも関わらず、すぐに2人組の警察官が自宅に到着した。しかし、ちょうど入れ違いになるように、母は車の鍵を掴み自宅から逃走したところだった。
結局、私と父に事情聴取をするだけして、彼らは去って行った。
母を連行してもらえなかったものの、思い切って警察を頼ってよかった
警察の対応は、非情であると思われても仕方ないかもしれない。
110番通報すれば彼らは駆け付けてくれるかもしれないが、実害がない以上、彼らのその場の職務は事情聴取で終わりだ。たとえ母がその場にいたところで、手錠を付けて連行してくれたわけではないだろう。警察官が去った後の当時の私も、そのような現実に気付かされ、無力感を覚えていた。
確かに、家庭内のみならず、人間関係の問題を抱えている人にとっては、「民事不介入」という言葉の持つ絶望的な響きはあまりにも有名だ。警察が思うように動いてくれず、SOSを発することを諦めてしまっている人も、実際にここにいるかもしれない。
それでも、私個人としては、毒親を連行してもらえなかったものの、思い切って警察を頼ってよかったと思っている。
毒親をはじめとするDV加害者は、身内に対しては暴君でも、実際は世間体重視の内弁慶であることが多いと感じる。身内というクローズな環境で安心しきっていた加害者に、第三者の存在をちらつかせ揺さぶりをかけることは、一定の牽制効果は期待できる(その分、動揺した加害者からの反撃には注意)。
また、私が後に住民票の閲覧制限をかける申し出の際に、警察への相談実績があったことは、支援措置決定の後押しになったと考えている。
一歩を踏み出さない限り、助けたい人でも何もすることができない
当時の私と似たような状況に悩んでいる人がいたら、「こんなことで誰かを頼るのは申し訳ない」と考えて躊躇しては加害者の思う壺だ、ということを忘れないでほしいと思う。
あなたが一歩を踏み出さない限り、あなたを助けたい人でも何もすることができない。
だから、私に騙されたと思って、まずは話しやすい身近な人でもいいので、打ち明けてみるところから始めてみてはいかがだろうか。意外と、強力な味方がすぐ近くに見つかるかもしれない。