大学時代、私はどん底だった。

浪人を経て第一志望の大学に受かり、晴れて憧れの大学に通うことになったものの、クラスにもサークルにもまったく馴染めず、友達が1人もできなかった。
人前で話す時には緊張して変な話し方になってしまったりして、授業でも苦労した。
何をやってもうまくいかない日々が続き、どんどん気持ちが落ち込んでいった。

藁にもすがる思いで受診した精神科の医師は「学校には行けている」

それで、藁にもすがる思いで大学の保健センター内の精神科を受診した。
そこで精神科医にこう言われたのである。
「でも、学校には行けているんですもんね」

要するに、学校に行けている程度ならまだ大丈夫、と判断されたのだ。
学校の授業では発表したりグループワークをしたりする機会があり、対人恐怖が強い私はもちろん支障をきたしている。それでも単位を取らなければ卒業できないので、私としてはかなり無理をしてどうにか授業に出ているような状況だった。
それでも「学校には行けている」という事実から、大して深刻な状況ではないと精神科医に判断されたのである。

社交不安障害とは診断されたものの、薬の処方などは一切なかった。実質的に何の治療も受けられないまま1年近く経ち、本当に大学に行けなくなって休学する羽目になった。
大学に行けなくなって初めて、薬が処方された。完全に手遅れだと思った。

休学が決まり、学生相談室でカウンセリングも受けることになった。そこで大学の精神科医に何もしてもらえなかった話をすると、カウンセラーにこう言われた。
「それはあなたの伝え方がヘタクソだからでしょ」

カウンセラーから「伝え方がヘタだから」と二重に責められ

カウンセラーとしては、私の伝え方がヘタクソなばかりに症状が的確に伝わらず、適切な治療を受けられなかったのだと解釈したらしい。

この時は本当にショックだった。
藁にもすがる思いで通った精神科では、何を言っても「学校に行けているなら大丈夫」と言われるだけで何の治療も受けられなかった上、カウンセラーには同情どころか、私の伝え方がヘタクソなのが悪いと二重に責められたのだ。

社会人になってからも同じような経験をした。
新卒で正社員として就職したが、人の話が理解できない上に要領も悪い私はまったく仕事ができなかった。
しかし、精神科医にいくら仕事ができないと訴えても、誰にでもそういうことはある、と軽く流されるばかりだった。私が何を言おうと「有名大学に入学できるくらい頭が良くて、その上ちゃんと卒業して就職もできて2年半は働けているんだし、まだ若いんだから大丈夫でしょ」の一点張りだった。
精神科医の見立てとしては、私の問題は今の仕事がたまたま向いていなかったことだけで、別の仕事を見つければ済むだけの話だと思っているようだった。

しかし、おそらく私はどの仕事に就いてもつまずいてしまう性質を持っている。精神科医は嫌ならさっさと辞めればいいと言うが、そんなに簡単な話ではないと思っていた。
私は発達障害ではないかと相談したこともあったが、「会社に入って2年半も社会生活を送れているなら発達障害とはいえない」と一蹴された。
うつ状態にもかかわらず早く会社を辞めるよう急かされ、あなたは愚痴ばかりで行動に移そうとしない、と説教される始末だった。

精神科医に対してはずっとモヤモヤしながらも、口下手な私は的確に言い返すことができなかった。そんな時いつも、大学時代のカウンセラーに言われた「あなたの伝え方がヘタクソなのが悪い」という言葉が頭をよぎった。

頑張ってきた人ほど適切な治療を受けられない理不尽さ

目に見えない心の病気を扱う精神医療においては、その過程で感じた苦しみは無視して、“事実”だけをもとに判断されてしまうことがある。

確かに私は有名大学に入れるだけの知能があって、授業では苦労したものの単位を取れる程度には出席して、自力で就職活動をして内定をもらい、新卒で正社員として就職してそれなりの期間を働けてきたのは事実だ。

しかしそれは相当無理をしてきた結果であり、これからも無理を続けられるとは限らない。
これまでは頑張ってこれたという事実によって「あなたはまだ大丈夫でしょ」と判断され、適切な治療を受けられなくなってしまう。頑張れば頑張るほど、誰からも助けてもらえなくなってしまうのだ。

精神科医やカウンセラーにずっと言われっぱなしだったのも精神的にかなりこたえた。診察やカウンセリングの場でも自身の能力不足が露呈したことで、ますます自己嫌悪を深めることになった。

分かったのは、助けを求めるにも能力が必要だということだ。私は言いたいことを頭の中で組み立てるのが極端に苦手だが、診察やカウンセリングで何に困っているのか聞かれてうまく答えられないと、大して困っていない人として認識されてしまう。
福祉の支援を受けるにも、制度が複雑で手続きが煩雑なものもある。ある程度の知識がなければ、自力では支援に辿り着けないだろう。

プロでさえ無神経。頼る相手を選ぶことが大切

私は、切実に助けを求めた先で地獄を見た。

もし、私のように精神科医やカウンセラーの対応に違和感を感じたら、まず転院を考えた方がいい。私はこれまで10人以上の精神科医を見てきているが、精神科は医師の個人差が非常に大きく、薬の処方も医師によって全く違う。

たまたまあなたが行った精神科の医師やカウンセラーはあなたを軽んじたかもしれないが、手遅れになる前に医療機関に助けを求めたあなたの行動は正しい。

今通っている精神科では発達障害と診断され、診断を受けたことで障害者手帳を取得し、金銭的な援助も受けられるようになった。正直、主治医は見るからにやる気のなさそうな感じだが、私も余計なことは話さず、必要な薬と診断書のためだけに割り切って通っている。

助けを求める時に大切なのは、どのような援助を受けたいのかを明確にすること、頼る相手を選ぶこと、援助を受けられるように考えて動くこと。
例えば私のように口下手な人は、悩んでいることを事前に紙に書いておいてそれを見てもらうなど、工夫が必要かもしれない。

ありのままの自分を受け入れてくれるほど、世間は甘くない。医師やカウンセラーはボランティアではないし、あくまでも商売である。
所詮、誰もが他人なのだ。