裏方で物事を進めるのが好き。演劇部で役者のサポート役になった
10年ほど前、私は高校生だった。一緒に通学していた同じ中学からの友人の1人が、演劇部に入るという。私は演劇部か弓道部かで迷っていて、知っている子がいるならと一緒に入部した。
だが、言い出した本人はすぐに退部してしまった。私ともう1人の友人はそのまま残り、引退時にはお芝居の全体をまとめるような演出と舞台監督を担当するまでになっていた。
通っていた高校の演劇部は、どっちかというとあまり目立たない部活だった。
私は大人数の中にいることが苦手で、友人関係も深く狭くの付き合い方が好きだ。目立つよりも裏方で物事を進めるような係の方が好きで、同級生のイメージではおとなしく、おしとやかと言われることもあった。演劇部には同じような人が多く、「私と似ているかもしれない」と思えて嬉しかった。
文化部の分類だが、中身は半分運動部くらいの運動量だった。1本のお芝居ごとに、役者と裏方に分かれて活動していく。筋トレ・ストレッチや声出しから始まり、木材の発注から大道具づくり・体育館全てを使って行う大会前のゲネプロ(本番のようにリハーサルをすること)の準備など、それまで経験したことのないものばかりだった。
私は裏方のスタッフとして、役者のサポート役になった。
主人公役が降板。急遽、代わりに舞台に立つことになった
高校2年生になると、S先生が元演劇部だったということで顧問の先生となった。このS先生が来るまでは、顧問と言っても名前だけで、たまに練習を見に来ては見学をするだけの先生ばかりでほとんど影響力はなかった。
S先生は仕組みから一掃して変えてくれた。初めは戸惑い、なかにはそれを機に退部してしまった子もいたが、おかげで本当に部活をしたい人だけが残り、活動がしやすくなった。
退部してしまった子の中に、次の文化祭でのお芝居で役者に決まっていた子がおり、急遽役者の選定し直しとなってしまった。他にも役者希望の子がいたのだが折り合いがつかず、私が主人公として舞台に立つことになった。決まった時はその場の雰囲気と勢いもあって承諾してしまった。
本番まで2週間に迫っていた。本当に慌ただしく、授業の課題よりも台本を読み、大量にあるセリフを必死に頭に詰め込んだ。
S先生はせっかくお芝居を作るのだから校内のみんなにも見てもらおうと、チラシを作って校内に掲示した。文化祭中の自由時間で希望者が観に来る形式の発表で、チラシを張るといろんな先生から「部活頑張っているね」「観に行くからね」と声を掛けられることが増えて、認知されていくのが恥ずかしかったが嬉しかった。と同時に、本番がどんどん近づき、緊張が高まっていた。
演劇部に入る決断と、役者として舞台に立つ決断をして良かった
本番当日、夏の大会で引退した3年生の先輩達が最前列に集まっている。いざ幕が上がるとあっという間に終わってしまい、あまり覚えていない。幕が下り、安堵して号泣した。
あまり話さなかったクラスメイトが観に来てくれていて、「演劇部すごいね」「演技良かったよ」と言われてびっくりした。
私の母がPTAで文化祭に参加しており、観に来てくれていた。母には恥ずかしくて舞台に立つとは伝えておらず、始まってすごく驚いたようだった。「良かったよ」と言われ照れ臭かった。
舞台の知識のない、目立つことの苦手だった私が、舞台に立ってお芝居をするなんて入部した時には想像もつかなかった。
何かを発信することの大きさや、伝え方など、それまで感じることのなかったことを知ることができた。その経験をしたからこそ、裏方での動き方も変わったと思う。
部員30人近くをまとめてそれぞれの部署と連携を取り、お芝居を作り上げていく感覚は他では味わえないし、良い仲間に会えた。
演劇部に入部する決断と、役者として舞台に立つ決断をして良かった。