大学生になり、18年間育ったふるさとから旅立った。新たな門出に選んだ場所は、7階以上の建物はなく、空が広く青い田舎町だった。
オープンキャンパスで初めて訪れた時、静かで広大で温かいその場所に心を奪われた。この何もない町で始まるであろう刺激的な日々を胸いっぱいに抱えて受験し、見事合格。たった1人で新たな生活をスタートさせた。

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もう10年以上前のことだけれど、入学式の日を昨日のように覚えている。
誰も知らない街では、私のことを誰も知らない。少し緊張の見え隠れする知らない顔ぶれに囲まれて、トキメキで心が踊るのを感じた。

これまでの自分を変えたいと思って、全く知らない自転車競技部のマネージャーになった。知らないことが連続する毎日は、想像していたよりも圧倒的に楽しいものだったし、同期は最高におもしろい奴ばっかりでいつもお腹がよじれるほど笑っていた。
初めての彼氏もできて、18の夏に初体験もした。彼は不器用で、照れ屋で、少し変わり者だった。けれど、いつも一生懸命でまっすぐな彼と一緒にいる時間は、心地よくて刺激的だった。
朝5時に起きて部活に行くのは大変な日もあったし、何もできない自分が悔しくてトイレで泣いたことなんて数知れず。自炊だって面倒だったし、彼氏と喧嘩をすることだって当たり前にある。けれど、そんないろいろな出来事も思い出せないくらいかすんでしまうほど、私のキャンパスライフは充実していたはずだった。

そんな新たな日常は、1日で全て崩れ落ちた。ある日、部活の監督の部屋に呼び出された。そこで伝えられたのは、魅力的なキャンパスライフの終焉。
原因は自分にあることは明白。軽率なセックスと、レイプされたこと。初めてを知った18歳には、結婚したいと思えるほど最高の時間を味わっていたはずなのに。この人が最初で最後だと感じていたからこそ、他の人が知りたいと思ってしまった自分の愚かさを恨んだ。
楽しい時間が続きすぎて浮かれていたのか、未熟な若気の至りなのか。いやそれとも両方なのか。今となってはその要因なんて何でもいい。けれど、大学2年生の夏に、早くも私の最高の大学生活は終了のホイッスルが鳴ってしまったのだ。

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あの寒い晴れた冬の日。私は一度死んだ。
大切な友達も、彼氏も、信頼も、楽しみも、描いた未来も、全てが手のひらから零れ落ちていった。そして白紙になった未来に心は壊れ、しばらくは鬱状態に苦しんだ。

10年以上たった今でも、あの頃孤独な気持ちを抱えて歩いた田舎の坂道を思い出す。何もない場所で作り上げた私の居場所は、あの日なくなって、それまでに描いていた希望に満ち溢れた情景をもう現実に見ることはできない。
「もしもあの時に戻れたのなら……」と考えない日が全くないわけではない。タイムマシンでもどることができたら、馬鹿で未熟で無鉄砲な自分に、「目の前の大切なものを大事にしろ」と伝えるだろう。元来頑固な私がそれを聞き入れてくれるかは分からないけど、それでも何度でもそう言い聞かせると思う。

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けれど、長い時間がたって振り返るあの街のことを、最悪な場所だとはどうしたって思えない。
真っ白なキャンパスにいろいろな色をのせて、自分が叶えたい人生を描いた。それは一瞬にしてすべて消えてしまった。だけど、今私は最高の人生を送っている。自分がやりたい仕事を行い、素敵な彼氏と一つ屋根の下で楽しく暮らしている。

何もかも終わったと思ったあの日から、あの街から、私の第二の人生は始まったのだ。白紙に戻ったからこそ、最強の教訓と最高の今が得られたのだと思う。
どんなことがあっても、どんな場所であっても、「人生はいつからでもやり直せる」と今なら信じられる。だからこそ、強くなれると感じている。

新たに始まったこのストーリーは、どんなエピローグを迎えるのだろうか。今度は孤独に迎えるのではなく、大切な人と一緒にゆっくりと紡いでいきたい。また、新たな物語の舞台となる「第三の故郷」となる場所で。