私は飲み会が得意だ。
飲み会といえば、お酒片手に大勢で騒ぎ散らかす会を想像するだろうが、私が得意なのはそのような会ではない。

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今からさかのぼること7年前。大学の研究室在籍時、飲み会は全キャンセル。一学年上の先輩と関係がこじれ、その先輩と周りが仲が良かったためだ。
もちろん他のメンバーと一対一で話すことは普通にあったが、複数人集まる飲み会は毎回断っていた。付き合いが悪いと思われようと、全員敵に回そうと、行きたくなかった。
私はお酒が大好きで、馬の合う人や自分に多くの気付きを与えてくれ、深い話のできる人とじっくり飲むスタイルを好む。そのため、とりあえず大人数で盛り上がって、毎回同じような話を肴にして飲めれば良いというスタイルはまっぴら御免だった。

研究室の居心地が実に悪く自分の居場所を探していた私は、ひたすら別の世界を探し求めていた。そこでたまたま知ったのが、ビジネススクール。
ビジネススクールは社会人がほとんどで、特に社会的地位のある人がたくさん学びにくる世界、通称MBA。大学院入学式後の説明会に体調の悪い中参加していると、突然説明が始まった。その地点ではなんとなく興味をもち、夏に公開授業に参加したのち、入学試験を受け合格が決まった。とんとん拍子で秋学期を迎えた。

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私の知り合いがいるわけでもなく、緊張感のある授業を受け、膨大な課題をこなす日々が続いた。EBITDA、ROIC、 DCF……など聞いたことのない横文字が飛び交い、まるで英語のリスニング状態。聞き取った言葉をメモし、ひたすら調べる。社会人達とのディスカッションについていけるよう、予習は手を抜けない。
しかし、自分の知らないことだらけでも、学び吸収していくことは全く苦ではなく、むしろ引き込まれていくようだった。また、私が最年少だったこともあり、声をかけてくれる人はすぐに増え、居心地は最初から悪くなかった。

しばらく経ち、初めて食事に誘ってくれた人がいた。私が若い学生だったから誘ってみようと思ったのだろうが、後に同じゼミになる人達だった。そして、そのメンバーの飲み会名には、私の名前がつけられた。

何回ビジネススクールの人達と飲みに行ったかわからない。各最終講義終わりの懇親会、京都の大文字焼を一緒に見たり、舞妓さんがいる所に食事会に行ったりもした。家にいると、「近くのお店で料理を注文して待っているから今から来て」というお誘いもあり行った。
一軒目でこれでもかというくらい美味しいものを食べても、二軒目は必ずラーメン、その定番コースも学んだ。
美味しいお酒、お酒の飲み方もたくさん教わった。お酒が好きな教授のいる会では、地方でしか流通しないお酒を買ってくる人もいて、それを持ち込み可能なお店を懇親会に予約して、皆で飲む。おちょこもお酒が変わると必ず変えてもらった。
話は実に面白く、機知に富んでいる。大学院生だった私が当時、社会人の大先輩にとって役立つ面白い話をできていたとは思えないが、先輩方は対等に聞いてくれ、会話をしてくれた。
あらゆる飲み会をこなしていくうちに、相手の話を聞く姿勢、こちらの話をするタイミング、お酒の席を楽しむ・楽しませる術を学んでいった。

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お酒が減ってきたら注いだり、次注文しますか?とすかさず聞いてくれたりする営業畑の社長、お店選びに抜かりのない社長、二次会で行った先輩の行きつけの店で、まるで自分の店のように料理を運ぶエンジニアの先輩など、器用で行き届いた先輩方の背中を数多見て学んできた。今自分もできるようになったかと言われればまだまだ先輩方に及ばないが、心得は身についた。

今では一人で居酒屋に入り、そこで出会った人と話に花が咲き、お酒をご馳走になることも増えた。お酒は気付けば、私の旅・出張の醍醐味にもなり、一期一会の出会いも色付けてくれる。
「酒博士」で知られる坂口謹一郎博士は、「酒は人生の大きな楽しみのひとつ」と言っている。お酒と出会う人々、そして共に会話とお酒を楽しむ瞬間は、私の人生に深みを与えてくれ、私は成長を感じているのである。