三重県でxの値を求めていた頃、実家を出たくて仕方なかった。
私は4人きょうだいの一番上だったのだけど、共働きの両親は育児と仕事の両立にてんてこ舞い。弟と妹は喧嘩するし、母は怒鳴り散らすし、父は母を怒らせる。
うるさいうるさいうるさいうるさい!
でも私まで怒り始めたら、この家はやばい。私は夜9時に寝て3時に起きて勉強し、家事を最大限手伝って6時半には家を出て学校に行き、夜7時ごろ帰宅し、ご飯の準備を手伝って、夕食を取り、寝る。土日は図書館が開いている時間中居座る。そんな生活をして、家族との距離を最大限取るようにしていた。妹は「家に全然いないお姉さん」と、私のことを認識していたらしい。
◎ ◎
特に、私が受験生のときに、母から「そんな大学受かるわけないじゃん」とか、模試でいい成績を取って喜んでいたら「喜んでないで勉強したら?」と言われたときに、私の中の「お母さん、マジで嫌い!!」という感情が爆発した(今考えたら怒ることではないのだけど……)。
本気で母を嫌っていたし、かつ母から嫌われていると思っていた。
そして3月、ついに東京の大学に合格した。
地元の新聞に名前が載るような、いい大学。こんな街はおさらばして、もっといい場所で活躍して、こんな街にはたぶんあんまり帰ってこないだろうな。そう思いながら上京の準備を整えた。
上京する日、祖父母の家に挨拶に行った。
「ついに東京に行くんやねえ……」「東京でも気をつけてね」と祖父母が寂しそうに声をかけてくれた。でも私は上京が嬉しくて仕方なくて、ニコニコしていた。
「あ、そろそろ名古屋駅の急行に乗らなあかんわ」と立ち上がろうとしたとき、私は母が泣いていることに気がついた。
何で泣いているんだろう、というのが素直な感情だったが、母は「東京に行っちゃうのが寂しい」と言った。私はとってもびっくりしたまま、「じゃーねー!」と名古屋行きの急行に乗り、東京へと旅立った。
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そして初めての一人暮らしがスタートした。実家の物置くらいの大きさの部屋だったけど、自分の城としては最高だった。怒鳴り声も聞こえないし。部屋には自分のものしかない。片付けても、散らかしても、自分の責任。
なんて自由なんだ。やっぱり一人暮らしって最高!!
ある日、父が出張で東京を訪れた。父と二人で食事をしたことなんてなかったので緊張したけど、二人で食べた牛タンは美味しかった。
山手線のホームで見送ってもらって、扉が閉まるまでバイバイしてたら、すごく涙が溢れてきた。
一人になるのが寂しい、私も三重県に帰りたいと思った。私も山手線じゃなくて新幹線に乗りたかった。
あー、私って家族のこと、ほんとは好きだなーって気づいたのは、あの時だったな。
その後、2人の妹が上京してきて、今では3人で仲良く暮らしている。可愛い服を自慢したり、美味しい料理をシェアしたり、嫌なことがあった日にはカラオケに連れ出してもらったり。
誰かと一緒に暮らすほうが私は好きみたい。もちろんたまにめちゃくちゃ腹立つけどね。