社会人になってから、これまでの人生であまり接して来なかったタイプの人たちと関わる機会が増えた。
しかし会社の中では、学生時代と比較して、人間関係の取捨選択は難しいように思える。直属の上司や同僚と気が合わなければ、それだけで精神的な負担が増すかもしれない。
そして私も、自身の教育係となった先輩との交流に苦心した1人である。
今回は、その教育係の先輩「Kさん」との業務を通じた、彼に対する印象の変化について綴りたい。
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Kさんは、腹が立つほどにイケメンだ。
NHKの連続テレビ小説への出演経験もある若手俳優と、塩顔が特徴の実力派俳優を7:3の割合で混ぜたような、涼やかな顔立ち。少し吊り上がった目は決してパッチリだとは言えないが、常人の1.3倍はありそうな長いまつ毛も相まって、アンニュイだが力強い眼光を放っている。
加えて、真っ直ぐ切り揃えられた黒髪の鋭いマッシュヘアに、黒を基調としたTシャツとスキニーのスタイル。比較的細身だが、手や腕など所々に男性らしさを感じられる部分もある。
そんなKさんは、関西弁で言うと「シュッとしている」、あえて横文字で言うと「スタイリッシュ」な印象で、容姿だけだと間違いなく「モテる」方だろう。
しかし、スタイリッシュなスーパーイケメンのKさんは、良く言えば「クール」、悪く言えばとんでもなく「ネガティブ」な方だった。
Kさんは若手にしては比較的落ち着いている一方、どことなく「暗い」オーラもある。私がKさんと初めて話した時、「この人マジで声ちっちゃい……何言ってるか全然聞き取れん……」と軽く困惑したことが記憶に新しい。
業務関係以外で話を向こうから振られたことはほとんど無いし、話をしている時もKさんの視線は自身のPCモニターに落とされており、目が合うことは少ない。
配属間もない頃の私は、「顔は良いんだけどなぁ……」と若干失礼なことを思いつつも、心の奥底ではKさんに対して、少しの違和感と今後の不安を覚えていた。
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その違和感や不安が膨れ上がり、「この人、なんか腹立つ」という感情に変わっていったのは、部署内の研修を終え、実際の業務に配置されてからのこと。
私の会社では月に1回、新入社員と教育係とで面談を行なっている。そこでは主に1ヶ月の業務の振り返りや今後の目標について話しているが、私は日々の業務で何かと自信を失っていたため、励ましやモチベーションの維持に繋がるような言葉も求めていた。
しかし、毎月Kさんから出てくる言葉は、教育係だと信じがたいレベルで耳を疑うものだった。
「自分、この仕事興味ないんで」
「多少大変なことがあっても『知らんし』って思いながら仕事してる」
「今後の資格取得の予定ですか?無いですね、勉強嫌いなんで」
などなど。ネガティブ語録を挙げたらキリが無いくらいだ。
私なりに毎日必死に業務に向き合っていて、早く一人前になりたいとずっと思っていて、多少辛くなってもポジティブ精神で乗り切ろうとして。でも、全然上手く行かない。
Kさんの言葉はそんな自分を嘲笑っているかのように聞こえて、Kさんが教育係であることを少し恨んだりもした。
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しかしここ1、2ヶ月ほどで、Kさんに対するフラストレーションの中に、少しずつ「尊敬」の想いも混ざるようになってきた。
ネガティブ発言ばかりのKさんだが、何だかんだ言って非常に仕事が出来る。
ことあるごとに周囲から「可哀想」と評されるほど多忙な私たちのプロジェクトで、百戦錬磨の先輩方も苦戦する場面が多い中、Kさんは難なく業務をこなしている。私が(正直、新人に任せるにはあまりにも高難易度な)システムの設計がどうしても出来ずにKさんに泣きついた際も、「ああ、それめっちゃ難しいよね」と言いながらサラッと的確な助言を頂いた。
それに、以前もベテランの先輩が、「Kくん、これからもこのプロジェクトに居てくれると嬉しいんだけどな〜」と言っていた。Kさん曰く、この先輩には「新人時代にちょくちょく怒られていた」そうだが、数年経って実力を認められ必要とされることは素直に凄い。
面談などで垣間見えるKさんの人柄にも、今となっては大分慣れてきた。
急にしれっと出る本人の一言に「この人、マジで何なの……?」と困惑・軽い苛立ち・1周回った面白さが混じった複雑な感情を抱くことも未だにあるが、それ以上に尊敬だったり「憎めないんだよなぁ」といった念があるため、何だかんだ嫌いにはなれない。最近は「旅行好き」という共通点があることも判明し、本当に一歩ずつではあるが、先輩後輩としての距離が近づいているようにも思える。
たまに腹立つし私の神経逆撫でしてくるしめっちゃ顔良いし、正直この人よく分からん。でも仕事めっちゃ出来るし超頼りになる。何なんこの人。嫌いになれんのやけど。むしろ、「何だかんだ」大好き。
現在のKさんに対する想いをまとめると、こんな感じだろうか。
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彼との交流を通じて、嫌いじゃないけど何か馬が合わない……と思う人に対し、私は「時間をかけてじわじわと知っていく」「特定の一面だけを見ず、その人の良いところを見つける」意識でいることを学んだ。
仮に学生時代にKさんと同じクラスになっていたら、一言も喋らずに1年間が過ぎていく絶対的自信しかないし、「何に対しても『だっる』とか言ってそう」や「世間を斜めに見てそう」などの偏見と共に遠巻きに眺めていたと思う。
社会人になり、Kさんのようなタイプの人と初めて密に関わったが、数ヶ月経ってようやく「普段冷たいのも決して悪意があるわけじゃないんだ、この人にもちゃんと良いところがあるんだ」という境地に辿り着けた。
そういった一見気の合わない人たちとも関わる(関わらなければならない)機会があるのは、良くも悪くも「『社会』に出ること」の面白さとも捉えられるだろう。
「何だかんだ」尊敬しているKさんとの業務はもうしばらく続くが、その間でより多くのことを学べるよう、これからも仕事を頑張っていきたい。