私が初めて働いたのは、いわゆるイタリアンから丼ものまで提供する低価格帯の飲食店だった。
バイトの決め手は大学から近いことと、夕方でお店が閉まること。
面接では大学生の休みの多さをアピールして「たくさん働きます」と言ったら、あっさりと合格した。
実際、初めのころは週に最低三回は勤務をしていたと思う。

◎          ◎

初めに任されたのはレジ係だ。
お客さんが来る。
挨拶をしたら、まずはテイクアウトか店内かを聞く。
それからメニューを聞いてレジの項目から品目をタッチ、厨房に注文書を送る。
支払いはポイント払いか現金か、それともカードか。
ここは大した関門ではない。
問題は、大きいお札が来たときだ。
お店のレジは、最近のコンビニみたいに自動計算ができたりコードを読み取れたりはしない。
お客さんがお金を置いたら、お釣りを暗算しながらお金をトレーから拾って小銭入れからお釣りを指で弾き引き出していく。
ところがメニューには500円とか600円とかキリの良い数字はほとんどなくて、540円とか620円とか微妙な数字ばかり。
ここまでで、私の脳内はパニック状態だ。
お釣りを渡すときは小銭から先に、お札は向きを揃えて、レシートも忘れてはいけない。
そして左に移動するように言いながら、プレートにスプーン、もしくはフォークを載せて渡す。
このときドリンクバーを頼んだ人にはコップも追加する。

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幸か不幸か、お店は昼食時に毎日行列ができるほど人気のお店だった。
なのに、レジは一台だけ。
後ろの厨房からは、しばしば店長の「もっと早く動いて!」という声がかかる。
だが、子どものころから「マイペース」「のんびりや」な私にとって、素早い動作は最も不得手なもの。
お釣りを渡し間違えるわ、注文書を送り間違えるわ、早々に私はレジ係から皿洗い係に左遷となった。

だが、皿洗い係も楽じゃない。
返却口から運んだお皿洗いにプレートの消毒、さらに調理の仕事が私を待っていた。
例えば「パスタ」類のメニューが頼まれたら。
私はすぐに皿洗いを切り上げて、メニューに合わせてタイマーをセット、冷蔵庫から取り出した麺を機械に入れてほぐして茹で、その間にソースを作り始める。
パスタは最低でも三種類、取り出すボウルや混ぜる具材もそれぞれ変わってくる。
もはやソースを間違えて作るのは良い方で、タイマーをセットし忘れたり、お客さんを待たせたり、店長の顔からは段々と笑顔が消えていった。

ある日のこと。
ソースを作るのに必死で麺をほぐし忘れ、パスタが作り直しになったことがあった。
店長は「代わって」とだけ言うと湯切りを投げ、それがボウルに当たって大きな音がした。
店内に沈黙が流れ、カウンターのすぐ向こうのお客さんが目を丸くしていたのを覚えている。
結局、初バイトは三ヶ月で辞めてしまった。

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現在のバイト先は、働き始めて三年目となる。
マイペースな性格は変わらないが、周囲には丁寧に教えてくれる社員の人や頼りになる先輩がいる。
レジでまともに接客もできなかった私が、今では後輩教育を任せられるようになった。
今でも時々、初バイト先でのミスを思い出して自信を無くすときがある。

そんなときは、「あの店にいた誰よりも仕事のできる人間になってやろう」と思うようにしている。
そして、学生の頃のミスなんて忘れてしまうほど仕事を楽しむこと。
それが私なりの目標であり、初バイト先へのリベンジである。