2020年4月。日本政府から国民に、特別定額給付金として一人あたり10万円が配られた。
新型コロナウイルスの影響で事業の停止や規模縮小を迫られた企業は多く、給与が減った国民への救済を目的としたものだった。
あれからもうすぐ3年になる。10万円給付は1回きり、だがコロナの猛威は変わらず、感染者は日に日に増え続けている。
恐らく人々はコロナの影響を強く受ける業種から遠ざかり、より影響の少ない職業を選択しなおしたり、外出の機会を減らしたり、もしくはコロナの影響が出てから毎日の支出をやりくりしながら日々暮らしているのだろう。

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2022年9月、そんな私にも支出をやりくりしなければならない瞬間がやってきた。
感染したのは同居人。私も有給と職場の制度を使い、検査前から休みをとって彼を病院に連れて行き、家中の手すりやドアノブや取っ手を拭きあげた。
買い物は初めて使うネットスーパー。この頃から国の方針転換により感染者への食料の配布がなくなった為である。
そして何より、今まで経験したことのないほどの高熱。固形物は思うように食べられず、栄養補給がままならないうちはパウチに入ったアイスクリームが役立った。氷枕も常備してあったひとつではとても足りない。凍るまでの半分の時間で溶けきってしまうからだ。

使わざるを得なかった有給、2人で4日分。抗原検査キット、2人分計4個で約6000円。病院の受診料。新しい氷枕。大量のアイスクリーム。おでこに貼る冷却シート。そして連日発生するネットスーパーの手数料。
そもそも給料の多くない私たち末端労働者にとって7日間の隔離は、ささやかな貯金が消えてなくなるには充分すぎる時間だった。翌月、口座残高を見て冷や汗をかいた記憶が蘇る。

当時はまだコロナ感染による自宅療養に保険がおりた。駆け込みで申し込んだ保険料が振り込まれた時、どれだけ救われたか。

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もう半年前の記憶だが、私に節約、貯金を促すには充分なくらいには、まだ色濃く残っている。
もう保険料はおりない。それどころか、感染法上の分類を現行の2類相当から5類へ変更することも議論されている。5類に引き下げられたら原則病院代は自己負担、今は1割で済んでいる治療費も3割負担となる。コロナ感染は、どんどん家計を圧迫するようになっていく。
これも時代の流れ、withコロナへ移行するには避けられない痛みだとは思うが……。家族の構成人数によっては、家族全員が感染したら百万円が消し飛ぶことも、なんら大袈裟ではないように感じてしまう。私がコロナのリスクに敏感すぎるからなんだろうか。

もし、百万円をもらえたら。
私には使うことはできないかもしれない。
そう考えながら、今日もマスクを手に取り、消毒液を鞄に入れる。少しでも感染する可能性を下げられるなら、とつぶやきながら。