こんなに雪が積もったのは生まれて初めてだった。
高校2年生の2月のことだった。
この日、関西地域は大寒波に見舞われ、各地で大雪となった。

私の地元は、比較的温暖な地域である。今まで雪が降っても水分を多く含んだ重たい雪ばかりだった。「明日は積もってるかな」と窓の外を眺めワクワクしても、翌日には見慣れた景色が広がっている。淡い期待に肩を落とした記憶ばかりだ。
小学生にして「明日の朝、起きたら積もってるかな」と期待することは諦めた。せいぜい、用水路の表面が凍っているのを割って楽しめるくらいか……。
そんな小さな私は、高校生にして雪に大興奮する日が来るなんて思ってもいなかった。

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朝、窓を開けると、車のボンネットにどしっとした白く重たいものが積もっているではないか。子供たちが小さな雪だるまを作っているのを見て、なんだか自分までワクワクした。私も昔、霜の被った車のフロントガラスに指で絵を描いたなぁ。
もちろん、雪に耐性のない地域だ。交通網は全面停止し道路も大渋滞であった。
当時はクソ真面目かつ遠方から高校に通っていた私。休講の連絡が入る頃には自宅を出発していた。たまたま、親が高校の近くで仕事をしていたため、親の車に乗り普段の何倍もの時間をかけて登校した。
普段は1枚しか履かない靴下を何重にも履き、とにかく生地の厚い服をセーラー服の中に着込んだ。この日ばっかりはダサい雨靴も喜んで履いた。普段は雨が降ったって、絶対にローファーで登校していた。だって長靴で登校するなんてダサくて恥ずかしすぎるから。

学校は自宅からもまだ北の方にあった。到着すると一面銀世界だ。学校ごと北の国にワープしたらこんな感じなんだろうか、と近未来的な妄想をしていた。

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私以外にもクソ真面目な生徒はやはりいた。唯一学校に来ていた先生がストーブを用意してくれたので、同じ学年の同志たちとストーブを囲んだ。
まあでも、積雪が珍しい地域の高校生が、こんな日におとなしくしているわけがない。たまたま集まっただけの私たち。クラスも違えば今まであまり喋ったこともない奴もいた。やはり景色がここまで違うと誰もがハメを外してしまうのだろうか、童心に還って雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりして遊んだ。ふかふかの雪の上に体を預けるだけで腹の底から笑いが込み上げてきた。
平日に制服を着て学校にいるのに、教科書も開かずに外で遊んでいるのが背徳的で自分たちだけ特別みたいで……。 
雪が色んな音を吸い取って静まり返った校舎にいると、ここだけが時間が止まった錯覚に陥る。

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それでも時計の針は規則正しく回った。夕方の4時頃になってようやく最寄りの鉄道が運行を開始した。
学校からはまばらに生徒が減っていく。私もクタクタに疲れ果てて、雪でべちょべちょになった手袋をカバンにしまって親の職場へと向かった。

帰りの車の中ではもう夢の中。自宅に着くともう白い塊は何も残っていなくて、一体どこからどこまでが夢だったのか。

高校の思い出は?と聞かれて、大雪の休校日に登校して遊んだこと、と言う人生になるとは思っていなかったが、私にとっては童心に帰れた大切な思い出だ。
人生で最高に寒かったあの日にできた、あの夢のようなひと時を、私は忘れないだろう。