百万円。言葉の響きはなんだかとても夢がある。
どちらかというと、私は物欲が乏しいほうだと思っている。だから例えば今、「自由に使ってオッケーだよ!」と百万円の札束をぽんと渡されたら、「歓喜!」より「困惑!」が勝ってしまうかもしれない。
でも、せっかく「百万円の使い道」というテーマでエッセイを書こうとしているのだから、どうせなら具体的に「あれがしたい」「これが欲しい」とリストアップしてみたい。
欲を素直にさらけ出すことは、その人の脳内をクリアに覗き見ることにも繋がるのではないだろうか。まあ、私の脳内を覗き見したいという物好きな人がいるとも思わないけれど、いないとも言い切れない。もしかしたらどこかで息を潜めているかもしれない物好きな誰かへ、私なりの「百万円の使い道」をプレゼンしてみる。
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まずひとつは、「夫婦でたくさん服を買いたい」。
私も夫も、今は洋服を滅多に買わない。ただ私は元々、服を買うのがかなり好きな人間だった。会社員時代、一番お金をつぎ込んでいたのが服だった。
でも会社を辞めて在宅フリーランスになってからは、1日中部屋着(あるいは寝間着)で過ごすことが正直な所ザラだ。そもそも洋服はあれもこれもと買っていたらお金がかかる。ただでさえ収入が不安定、そしてほとんどの時間を家で過ごすとなると新しい服を買う必要性がない。
夫のほうはというと、良く言えばミニマリスト、悪く言えば無頓着。夫曰く、「服買うお金があったらメカメカしいものを買う」。夫が言うメカメカしいものとは、PC周辺機器だとかスマート家電だとか、あの類。いわゆる機械オタクなのだ。
そして夫はただでさえ手持ちの少ない服を、季節の変わり目で容赦なく捨てていく。「冬服、ないなぁ」と呟く(それでも自ら買おうとはしない)夫を見かね、私はその手を引いて先日服屋へ駆け込んだ。そしてセーター2着とロングコート1着をお買い上げ。
「何でまりちゃんが僕の服を買うの……?」と夫は当初困り顔だったけれど、私がプレゼントしたその服をいざ着たら、「冬服って、あったかいんだね」とほこほこした顔で言っていた。
そのとき、改めて思ったのだ。
おろしたての服は、どんなシチュエーションでも気分を高揚させてくれる。自分が身に纏う場合は言わずもがなだけれど、今回のように、いつも隣を歩く人が、真新しい服に包まれているその姿も良い。
夫は「いつも通りで十分だよ」なんて言うかもしれないけれど、たまには奮発して、お互いオシャレを楽しんでみたい。それに、無頓着とは言ったが、夫はいざ「服を買うスイッチ」が入ると猛烈にこだわる人でもある。好きな雑誌はmen’s FUDGE。
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もちろん、服だけで百万円使い切ろうとは思わない。
私たち夫婦は紙ぺら1枚を市役所に提出しただけで、結婚に伴う華やかなイベント事は特に何もしていない。式は挙げなくてもいいけれど、せっかくならウエディングフォトは撮りたい。
籍を入れた後に写真の話は2人の間で上がったものの、お互い忙しくて何となく話が流れてしまっている。ただ、「20代のうちに撮っておきたいな」という気持ちは確かにある。この辺りも夫は無頓着だから、私からのプッシュがもっと必要なのだろう。
あとは「教習所って何であんなに高いの?」と言う夫のために、教習費用も百万円から補填したい。たとえ百万円の札束が私に手渡されたものだとしても、それは「こじま家のもの」と私は認識する。夫は車の免許を取りたいらしい。「2023年の目標は免許取得!」と去年の大晦日に高々と宣言していた。
片やペーパードライバーの私はそこまで車の必要性に駆られてはいないけれど、それでも無いよりはあったほうが便利だろうなとは思う。「別に車に興味はないんだけど、まりちゃんと一緒にドライブはしたいんだよね」と言う夫のその横顔を、私も助手席で見てみたいと思う。こじま家が車を所有するようになったら、私もさすがにペーパーを卒業して運転席に座れるようにならないといけない。
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思いつくがままに書いてしまったが、私の「百万円の使い道」を要約するとこうだ。
- 夫婦2人で服をたくさん買ってオシャレに街を闊歩する
- ウエディングフォトを撮る
- 夫の教習費用
- 車を買う
車の値段はピンキリだろうから、これら全てを叶えようとすると百万円からはみ出てしまうかもしれない。まあ、それならそれでいいのだ。
こうやって夢を膨らませる時間そのものに、価値があると思うから。