「男性が飲む経口避妊薬、実用化へ」
仕事帰りの電車の中。Twitterをスクロールしながら、この見出しを見つけた時、
私は「ついに!」と、胸が高まる気持ちと同時に「やっと」という苛立ちも感じた。
「本当に実用化されるのか」と正直、半信半疑だ。
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現在実用化されている経口避妊薬(ピル)は、女性向けだ。
女性が毎日同じ時間に内服することで、卵巣からの排卵が抑制され、避妊効果が非常に高いとされている。服用中は通常の生理が起きず、薬を飲まない休薬期間に消退出血という、軽い生理のような出血があって、個人差はあるけれど、私がピルを服用していた時には消退出血は2日間だけだった。
私は1年半くらいピルを服用していたことがある。
ピルのおかげで、生理痛で湯たんぽを抱えながら布団にくるまることもなく、生理を気にすることなく仕事もバリバリできることが、私にとってはとても嬉しいことだった。
私は、交際相手にそそのかされたわけでもなく、自らの意志でピルの服用を始めた。
健康診断で別の疾患が見つかってその治療を受けるために、ピルの服用をやめることにしたから、今では服用していない。
だけれど、健康になって、もしいつか結婚したり、パートナーと同居することになったら、
ピルの服用を再開すると思う。
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ピルの服用をやめたときには、さすがに親にもバレてしまった。
「バレる」という表現は、私が何か悪いことをしているように聞こえているけれど、あえて「バレる」と言ってみよう。この出来事によって、世の中がどれだけまだ偏見にまみれているのか、未婚のまま妊娠すると非難を受けるのは女性なのに、女性が積極的に避妊を行うという行為自体がタブー視されているのか、私は身をもって経験した。
特に父親は、「何のために飲んでいたんだ」と口調を荒げていた。
「自らの身体をコントロールしたかった、生理痛がきつかった、ピルを飲めば生理前の情緒不安定がなくなるから」
私はそう答えた。
避妊効果があることも、もちろん服用の理由の一つであった。今なら胸を張って言える、避妊して何が悪いと。
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避妊のために服用していたことは恥ずかしいとは全く思わないけれど、血がつながった60代の頑固親父を目の前にして「セックスするけど妊娠したくないからだよ!」と叫ぶわけにはいかなかった。
ただ、私たちの親世代にとっては、「ピルを飲む=性に奔放な女」というイメージもあるということを知った。「ピルを飲む=子どもを産みたくない身勝手な女」というイメージだ。
避妊は、女性だけの問題だと見られがちだ。「妊娠したくないならセックスしなければいい」という意見はおかしいと思う。
女性だって、快楽を感じてもいい。
ピルの服用中も、私の交際相手にはきちんとコンドームを使用してもらっていたけれど、
ふと「私だけじゃなくて、男性側にもピルがあればなぁ。1年ごとに交代制で飲めたらいいのに」と思いついた。
その時、男性用のピルがまだ実用化に至っていない理由が様々あると知った。
個人的には、ピルを服用し、副作用を理解してまで、避妊をしようとする男性が少ないからなのではないかと思っている。つまり、「需要がない」と製薬業界や研究の世界から見込まれているのではないかと。
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女遊びが激しいある男性に、飲み会の場で冗談半分で「男性用ピル開発中なんだって、完成したら飲めば?」と言った時、「どうせ、妊娠するのは俺じゃなくて、女じゃん。なんで俺が副作用を感じてまで、避妊しないといけないわけ、コンドームで十分でしょ」と笑いながら答えていた。
女性問題は男性問題だと思う。
女性の社会進出、男性との給与格差、出産・育児と仕事の両立、女性経営者が少ない日本。
女性に関連して挙げられる課題のうち、男性が全く関係のないものはない。
妊娠と出産は女性しかできないけれど、男性がいないと妊娠も出産もできない。
それにも関わらず、避妊というテーマになると、男性がコンドームを正しく装着したのか気にするのは女性、生理が予定より1日遅れるだけで、そわそわしてしまい心配になるのも女性、ピルを服用した場合の副作用を心配するのも女性、女性ばかりが頑張っている。ただ女性に子宮があって妊娠できるというだけなのに。
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決して男性を責めるわけではなく、男性が男性らしさに囚われない社会になれば、女性にとっても生きやすくなると思うだけなのだ。
専業主夫になったり、男性がピルを飲むことが当たり前とまでは言えなくても、「まぁそういう人もよくいるよね」と言えるようになったらいいのに。
だから、私は、男性用ピルの実用化を望む。
参照:
フォーブス・ジャパン(2022年11月6日)「男性が飲む経口避妊薬、低副作用「非ホルモン性ピル」実用化へ」
ダイアモンド・オンライン(2022年4月10日)「男性がする避妊法、コンドームとパイプカット以外の選択肢がついに登場か」