そこのあなた、女性の卵子には「残機」があることをご存知ですか?
「残機」とはいわゆるゲーム用語で、プレイヤーがあとどれだけミスをしても許されるかを示す許容数のこと。
マリオがノコノコにぶつかっちゃっても、マグマに落ちちゃっても、何回かは生き返ってゲームを続行することができる、そういうことを言います。

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女性が持つ卵子は、あとから体の中で作られるのではなく、胎児の頃から体に備わっていて、女性は体の中にすでに卵子を持った状態で生まれてきます。じゃあ、一番卵子を持っている時期、残機がいっぱいの時期はいつだか知っていますか?

生理が始まる頃?妊娠適齢期と呼ばれる頃?いいえ。答えは、なんと胎児の頃なのです。お母さんのお腹の中で命が芽生えて妊娠20週目くらいの頃で、その数約700万個。
しかも、いざ生まれる時にはすでに卵子は減少し始めていて、約200万個程の「残機」で、女性は生まれてきます。つまり、胎児の時点ですでに約500万個の卵子を失っているのです。

成長して生理が始まるまでも、卵子の「残機」はどんどん減っていきます。思春期と呼ばれる頃には、約2〜30万個、35歳頃には、思春期の約4分の1、25歳の頃の約2分の1にまで減少し、年齢を重ねて、やがて閉経します。

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これらのこと、あなたは知っていましたか?
私はというと……理解していませんでした。自分が子どもに恵まれず、不妊治療クリニックの門を叩くまでは。

もちろん学生の頃、保健体育の授業で習いました。1ヶ月に1度、卵胞から成長した卵子が1つだけ飛び出して、精子が来るのを待つということ。そして、受精しなければ、受精卵が子宮に着床しなければ、それが月経となること。
でもその知識を、自分の身体と、自分の人生に置き換えたことはありませんでした。

1ヶ月に1度しか妊娠のチャンスはなくて、ストレートで大学を卒業してから、高齢出産と呼ばれる35歳までに訪れるチャンスは、私の場合、約156回。私はもう30歳。年齢以外の全てを棚に上げて35歳までで区切るとすると、単純計算であと60回しかありません。

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不妊治療のクリニックで最初に行われる検査の中に、女性の卵子の「残機」を調べる検査があります。私の卵子の「残機」は、同年代の平均と比べて、若干少ないものでした。
お医者様はその数値を見て「これくらいなら心配ないよ」と言ってくださったけれど、やっぱりショックでした。その他の数値には概ね問題がなく、私の卵子の「残機」が不妊の直接の原因でもない、とのことなので、私たち夫婦の不妊の理由は、今のところよく分かっていません。

高校生の頃は、大学での学びに期待を膨らませ、大学生の頃は、社会人として、これからどうやって社会貢献をしていこうかと悩み、社会人として初めて役職がついた頃は、やっと自分の力を試す時がきたと意気込んでいました。

あまり裕福な子ども時代ではなかったけれど、「女の子だから」と学びや機会を奪われることはなかったし、幸福なことに、私は自分で選び取って今の人生を生きてこれました。けれど今、私は、私のその選択が正しかったのかどうか、分からずにいます。

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高校卒業の18歳当時、大学卒業の22歳当時、初めて役職がついた27歳当時、私の卵子の「残機」がいくつだったのか、そんなことは分からない。けれど、もしもあの当時、自分の「卵子」の残機を知る手段があれば……。そしてもしも、その当時から自分の卵子や生殖器について知り、身体という観点から人生を見つめることが出来ていたなら…それでも今と同じ人生を選んでいた、と、私は胸を張って言うことができません。

不妊治療の検査以外で、生殖器の検査と言えば、一般的に「ブライダルチェック」と呼ばれるものがあります。最近では「妊活チェック」などとも呼ばれますが、「ブライダルチェック」「妊活チェック」と聞いて、これから進学や就職をしようという18歳や22歳、仕事が波に乗ってきた独身社会人が、「これは自分のための検査だ」と感じることが出来るでしょうか?

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私は、性別に関係なく、いろんな生き方が認められるようになりつつある現代の若者、人生の岐路に立っている若者にこそ、選択肢を狭めないためにも、生殖器の検査や、「知る機会」が必要なのではないかと考えています。
女性の卵子の観点から述べてきましたが、男性も同じです。精子の量や、運動量が悪くて不妊に繋がっている人もいます。

「これから進学や就職をする時に、やっと仕事が楽しくなってきたのに、水を差すようなこと言わないでよ!」
と感じる方もおられるでしょう。
でも、キャリアは生涯をかけて積み重ねられる一方で、「生殖」は人生のある一定の期間にしかないイベントなのだということも、私は若者に伝えたいと思います。