「風呂場の髪の毛、あと一本、あと一本なのですが、お願いしたいです」
これ、私の親友。
2年間限定で一緒に住むことになった最初の夜のこと。私が最初に入って、親友が次。初日からこんなにかというほど“ゴシゴシ”と、床をブラシで洗う音が聞こえる。
きれい好きなのだな、その程度に思った私は、お茶を飲みながら家具などの合計金額をリビングで計算して過ごしていた。出てきた親友が真剣な顔でさっきの言葉。

この親友は、何か難しいお願いをしたり、人への苦情を言ったりするときにこんな口調になる。本人は至って真剣なのだが、何かの営業を受けている気分になってしまい笑ってしまう。なぜそんなに下手に回るのか、そもそもなんで敬語?と。
ちなみに、男性とご飯に行ってきた後の感想も、
「本当に何様だよって思うんだけど、正直、今後はお会いすることはないなと感じました」
という具合。これも本人は至って真剣。そして、
「もし付き合っても、このお方に時間を割くのが惜しいです」
とバッサリ。こんなちょっとだけ毒を吐く親友が私は大好きだ。

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大学の入学ガイダンスのとき、私たちは出会った。
後ろから突然、「入試、○○枠の子だよね?」と満面の笑みで話しかけられた。続けて「入試の時に見つけて、ずっと友達になりたいと思ってたの。良ければライン交換してくれませんか」。
人見知りな私は、初対面の人に話しかけられるととても緊張して、顔を見られないことが多い。それに加えて、話しかけてきたこの子にはすでに5人位のグループが形成されており、周りの子たちの目線が痛くて転校してきたときの教室に入るときと同じような、ちょっとした圧さえ感じた。

でも、この子の顔は見ることができた。そして、この子に対してだけは、全く圧を感じることがなかった。
どうして大丈夫だったのかは、うまく言葉にできない。この子の纏うオーラに負の印象を全く抱かなかったとしか説明できない。そしてそのオーラを親友はまだ纏っている。

大学に入る際、私は都道府県の特別枠を利用して入試に臨んだ。その枠に合格したのが私、友達が受かって、落ちたけど志望校に受かったのがその子だった。だから、同じ枠で入試を受けた友達から私の話を聞いたとのこと。入試の時にその枠の人(私)を見つけて、勝手に親近感を抱いていたとのこと。

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その後同じクラスで過ごすようになって、気が付いたことは多かった。
その子はいつも笑顔で、裏表がない。その上あの口調が相まって、クラスの全員から話しかけられるタイプの本物の人気者だった。
ちなみに私は、教室の端っこでパソコンをいつもいじっているような静かタイプ。傍からみると全然似ていない。
それでも、なぜか月1で一緒にご飯を食べていたし、授業の合間で一緒に過ごす時間も多かった。そしてほぼ毎日ラインをしていた。通知音がうるさくてよく母に怒られた。

「いつもありがとう」
「○○(私)と出会えて本当に良かった」
「ガラス割ってしまいました。本当にごめんなさい」

ちょっと恥ずかしくなるような言葉も、まっすぐに、自分の気持ちをきちんと伝えている私の親友。いつもありがとう。これからもどうぞよろしくお願いします。