高校1年生の春、人生で初めての彼氏が出来た。
「ずっとずっと好きでした、付き合ってください」と、真面目な顔で告白してくれた彼は、身長が私よりすらりと20センチほど高くて、坊主頭に眼鏡をかけた優しい男の子だった。

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そんな彼と出会ったのは中学3年生の夏だった。
私はもともと塾とは無縁の学生生活を送っていた。しかし中学3年生になり、推薦入試の予定とはいえ受験予定の高校が進学校だったこともあり、両親にお願いをして、私の友達がもともと通っていた塾に高校受験の間まで通わせてもらうことになった。

入塾前に実施されたテストの結果で成績順にAクラスとBクラスに分かれていて、私はAクラスで授業を受けることになった。同じ中学校の友達もいるけど他校の同級生もいて、自分以外の全員が賢く見えて、最初はとにかく萎縮していた。
頑張るとは決めたものの数か月間やっていけるかな。

そんな不安を抱えたまま帰宅しようとした入塾初日。塾に提出する用紙をどこへ提出すればいいのか分からず右往左往していた。
その時、隣のBクラスから授業を終えて出てきた同級生の男の子が戸惑っている様子の私を見て話しかけてくれた。

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「もしかして初めて?この書類はここに出せば大丈夫だよ」
「あ、ありがとう……」
「いえいえ!クラスは違うけどよろしく!」

そうニカっと笑って彼はまた自分の教室へと戻っていった。
他校だけど優しい子だったな……。そう思いながら私は書類を提出して帰宅したのだった。

塾に通い始めて2ヶ月ほどが経過した頃。
私も塾に慣れて、学校の宿題に加えて塾から出される大量の課題に四苦八苦しながらも毎日をこなしていた。私がAクラスに入ると、入塾初日に私に話しかけてくれた彼が同じ教室に座っていた。ぱちり、と彼と目が合う。
「成績頑張って上げたから今日からAクラスなんだ!よろしくね」と彼は笑った。
私も初日に彼に助けてもらったことを覚えていたから、単純に嬉しいなという気持ちだった。

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季節は秋から冬へと移り変わり、私たち受験生も塾に滞在する時間が自然と長くなっていった。

塾が休みの日もお昼を持ち込んで、同じクラスのみんなでひたすら自習室で自習をする。いつも自習室に集まるメンバーは決まっていて、試験対策の一問一答を出し合ったり、私の苦手な数学を彼が教えてくれたりもした。勉強漬けで苦しい毎日だったけど、自習した時間はとても楽しい時間だった。

そして、私は塾で推薦入試対策も受けていたおかげもあり、推薦入試で志望校を受験して合格することが出来た。そして数か月後、一般入試も行われ、彼も私と同じ高校に合格したことを塾の先生から聞いた。

私は彼の志望校を聞いていなかったからとても驚いていると、塾の先生が、
「彼はあなたと同じ高校に行きたくて偏差値を20も上げたんだよ、頑張ってたんだから」
と、微笑みながらこっそり教えてくれた。

努力していた彼の姿は私もすぐ近くで見ていたし、すごくびっくりしたけど、入塾初日の彼の笑顔や今まで真剣に勉強を教えてくれた姿が私も忘れられなかったし、いつの間にか彼を好きになっていたんだなと思った。

彼に高校の帰り道、告白された私は、嬉しくて「よろしくお願いします」と二つ返事をした。
そんな優しくて真面目な彼とは最初は楽しく付き合えていたものの、お互い部活が忙しくてなかなか2人の時間が取れなかったり、メールでのやりとりが上手くいかなかったり、気持ちが少しずつすれ違ってしまい、最終的には数か月で別れてしまった。

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別れてから約5年後に、何の用事だったかは忘れてしまったけど彼から連絡があり、会うことになった。久しぶりに会った彼は髪が伸びて坊主頭じゃなかったけど、優しい笑顔と眼鏡姿はそのままの大学生になっていた。

一緒にご飯を食べながら彼の近況を聞いたり、こちらのバイト先の話をしたりとても楽しい時間だった。だけど、かつてのような「彼を好きだなあ」という気持ちは全然わいてこず、「友達として一緒にいると落ち着くなあ」という気持ちに変わっていた。
それくらい交際していた時にたくさんすれ違ってしまったんだと思ったし、彼はもう私にとっての「恋人」じゃなくて、「友達」になったんだなと自分でもひしひしと感じた。

だけど、別れた後も友達のように食事をして、他愛無い会話が出来たのは彼だけだった。それくらい彼は誰に対しても優しい人だったのだと思う。
そんな優しい彼が私を好きになってくれたこと、彼と楽しい時間が過ごせたことには感謝したい。今は連絡を取り合っていないから彼の近況は知らないけれど、幸せに元気で暮らしていてほしいなと思う。

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今までも色んな人との出会いや別れを繰り返しながら、私は生きてきた。
私をいじめていた職場の嫌いな上司も、色んな理由で離れることになってしまったかつての友人達や恋人だった人達も、当時を振り返りたくないくらい苦しい思い出があるかもしれないけれど、時間が経ち冷静に振り返ってみると、どんな人ともあの時出会っていたから今の私があると今なら思える。

これからも今は苦しく思えるかもしれないけど、「どの出会いもいい出会いだった!」と胸を張って思えるように、私のことも出会った誰かにそう思ってもらえるように、一人一人との出会いを大切にしていきたい。