私は好きな人に素直になれない。これは昔から今もなおっていない。
気持ちとは逆の行動を取ってしまって好きな相手を傷つけてしまった事もある。異性同性問わず、自分が好意を持った相手に対しては「きっとわかってくれる」と甘えてしまいがちだ。
なかでもとりわけ、好きな人に優しくできず今でも後悔している出来事がある。

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1年前、大学生活が終わろうとしていた。3年次・4年次はコロナで友達とあまり会えず、キャンパスで授業も受けられず、寂しい思いがあった。
3月の卒業式は対面でキャンパスで行われるという事で、とても楽しみにしていた。仲の良い友人と会おうねと約束し、袴も決め、当日を楽しみに待つばかりとなった。

ふと、1年次に授業でお世話になってからずっと尊敬していた大好きな先生に、直接お会いしてから卒業したいという気持ちが湧いてきた。勇気を出して、メールでお会いできるか聞いてみることにした。
メールの文面が不安だったので友人に見てもらった後カフェに行って、3時間ほど送信ボタンを押すのを躊躇った。2、3月は入試や新年度の準備でお忙しいだろうし、迷惑じゃないだろうか、もし返信が来なかったらどうしよう。そんな気持ちが巣食ってなかなかメールを送信するか決断できず。
しかし友人に見てもらって背中を押してもらったから送ろう、ここで送らなければ一生後悔すると思い、送信ボタンを押した。

その翌日、先生から返信が来た。「ぜひ会いましょう、一緒に写真も撮れるといいですね」という文面で、読んだ瞬間、嬉しさと安堵で泣いてしまったのを覚えている。久々に先生に会える、嬉しいと何度も思った。

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そして迎えた卒業式当日。式典が終わってから友人と写真を撮ったり、語り合ったあと、大好きな先生に会いに行った。先生の姿を見た瞬間、嬉しくて思わず駆け寄ってしまった。

久々にお会いした先生はやはり素敵だった。先生からはお祝いの言葉と袴を褒めてもらって、天にも昇る心地だった。
久々にお会いできて嬉しい気持ちと照れ臭い気持ちの両方が湧いて出て来た。しかしどうしたことか、それらの気持ちは真っ直ぐ育たず、変な方向にねじれてしまった。とっさに好きであることがバレたら恥ずかしい、隠さなくてはという思いもでてきた。

先生から卒業後の進路を聞かれた時、「就職します」と無愛想な言い方をしてしまった。先生が少し驚いた表情をされたのがマスク越しでもわかった。メールで「お礼を言いたい」と書いたのに言えなかった。
先生と写真を撮ってもらった後も、写真を撮ってもらった懐かしいクラスメイトとの話に花を咲かせてしまい、きちんと先生に最後の挨拶ができなかった。
先生はきちんと私の成長を褒めてくださったのに。そのあとは結局逃げるようにして先生のそばを離れてしまった。
好きという気持ちを知られたくないという、自分のくだらないプライドが邪魔して素直になれなかった。

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久々に直接先生にお会いして緊張していたせいもあったかもしれない。大好きな先生ときちんと話して自分を知られることが怖かったという思いもあったかもしれない。
結局自分のことしか考えていなかった自分に腹が立った。卒業式に会ってくださった先生の気持ちを考える余裕など当時の自分にはなかった。

これを機に、私は好きな人に素直に気持ちを伝えられるようになること、人に優しくなるために自分の弱点も含め受け止める努力をしようと決めた。

私は今でも卒業式の日、きちんとお礼を言えなかったことを後悔している。この気持ちを無駄にしないように、この先大切な人と出会ったときに思いを素直に伝えられるようになるために、できることを日々積み重ねていこうと思う。