2023年3月13日、個人の判断を尊重した上でマスク着用を選択できるようになった。2020年にコロナが流行して以来初めて、医療機関など場所にもよるが、ようやくマスク着用を求められない環境になった。現時点でマスクを外している日本人はさほど多くない印象だが、政府の公式な政策とのことで、コロナ禍以降の日常生活における行動の幅が広がったように感じる。心理的な制約も緩和されただろう。
それ以前のコロナ禍の私は、行動面でも気持ちの面でも、塞ぎ込みがちになっていたと思う。
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コロナが国内で流行し始めた頃、私は大学院生だった。幼い頃から海外に興味があり、大学進学後は毎年海外に行く学生生活だった。旅行だけでなく、大学の授業や交換留学なども活用した。「海外に行く」ということは側から見ると、「お金ある」「恵まれてる」と思われるかもしれないし、私もそう思ってしまうことが未だにある。しかし、自分でいうものではないかもしれないが、少なくとも学生時代の海外渡航は、努力や積み重ねの結果だと思う。海外旅行の費用は自身で稼いだバイト代で賄っていたし、授業や留学のために面接を受け、給付型奨学金を獲得した。気持ちや努力次第で、海外に行くことができたのだ。
しかし、コロナが流行し、「努力しても海外に行けない」環境になった。それまでの私にとって、遠出すること、特に海外に行くことは、日常から抜け出して自分を客観的に見直す機会と捉えていた。それができなくなり、私の心の矢印は常に内を向いてしまうようになった。社会人になってからは生活スタイルが大きく変わり、「海外に行こう」という願望も薄らいでしまった。日々生きていくことで精一杯だったのだ。
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去年あたりから、少しずつ海外と行き来する人が増えていった。街中では海外からの観光客やビジネスマンの姿をよく見るようになった。日本人も同様で、SNSでインフルエンサーや芸能人の「海外に行ってきました!」投稿がタイムラインに頻繁に流れるようになった。職場でも、海外旅行のお土産を配っていた職員がいた。円安なのによく海外行けるなー、と思っていたが、内心とても羨ましかった。人一倍海外好きな私が海外から遠ざかっているのに、とか、仕事で一杯一杯なのに、とか。普段「早く海外に行きたい〜」と言っているのに、口だけで行動をしない自分、海外に行った人を必要以上に妬んでしまう自分が嫌になり、自己嫌悪に陥ってしまった。
そんな中迎えた3月13日の週。コロナ関連の制約のうち、マスク着用という大きな取り組みが緩和されたせいか、なぜか心が軽くなった。マスクをしていない人を見ても、今まで以上に何とも思わなくなった(場所によるが)。
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ふと、「今海外に行くとしたら、どれくらいの費用でいけるのだろう?」と思い、数年ぶりに航空券検索サイトを開いた。まとまった休日が取れそうな月を選択し、行き先はとりあえず全てを検索。検索結果を眺める。
「コロナ禍前に行ったこの国、結構航空券高くなってるな」
「ここ行ったことないけど、思っていたよりリーズナブルだな」
「うまく休暇申請すれば、この時期に海外行けるんじゃない?」
気がつけば、検索を楽しんでいる自分がいた。検索結果を見ただけで、こんなにワクワクするとは思っていなかった。そして、思っていたよりも海外旅行との距離感がコロナ禍前のそれに近づいていた。有給申請して、まとまった休暇を平日にとる。目的地は遠くても東南アジア。航空券含めた予算も現実的。
決めた。今年中に海外に行こう。そして、学生時代の「外に行きたがる自分」を取り戻そう。
決めたからには今から計画を立てないと。できたら、現地に友達がいる国に行きたいな。
海外旅行は計画から始まる。私の旅は、もうすでに始まっていた。