私には推しが沢山いる。

小学生の時から10年以上追いかけている小説家、インスタの広告で流れてきてそのままファンになったイラストレーター、まだ画面越しでしか会ったことのないアイドル、漫画や小説の登場人物、大学の美術史の講義で知った画家、さらにはその画家の絵に描かれた名前も知らないあの子……。こうして考えると、私には推しが本当に沢山いる。
でも「友達に『推し』いる?」と聞かれると、パッとは思いつかない。なぜならば私にとって推しとは、ちょっと離れた場所から眩しげに見上げるような、自分からは遠い存在なのだ。反対に、友人は自分とフラットな立場だから、その二つの言葉を繋げることはちょっぴり難しい。

逡巡した結果、「友人で一人推すなら、あの子かな」という存在が浮かび上がってきた。彼女は私と同い年なのだが、人間としてのスペックが色々とすごすぎて、思わずいつも「本当にすごいよな~」と少し離れて見上げたくなってしまうような存在なのだ。「友人」という自分と対等な存在でありながら、「推し」という遠い存在の性質も兼ね備えているため、充分に「推したい友人」になり得ると判断した。

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彼女とは大学の同級生として知り合った。同じ学部学科だった。友達の友達として初めて会った時から、「自分とは住む世界が違う、まじすっごい人」以外の何者でもなかった。
「学生のうちに絶対に長期留学に行く」という確固たる意志を持ち、高額な費用を準備するためにバイトをいくつも掛け持ちして働きまくっていた。留学に向けての勉強も日々欠かさない上に、運動部だったため活動日も一日の練習時間も半端じゃなかった(今思うと、当時あの子がいつ寝ていたのか謎すぎる……)。
そんな「まじすっごい人」と、なぜかゼミの責任者を一緒にやることになった。知り合って2年、大学3年生の時だ。良くも悪くも放任主義のゼミの指導教授から「責任者を二人決めてね~」とゆるっと言われ、彼女が「じゃあ私やるけど、もう一人希望者いますか」と口にしたその時、「あ、誰もいないなら私が」と気づいたら手を挙げていたのだ。LINEを交換し、トーク画面で互いに交わした挨拶を見て「あの『まじすっごい人』とLINE交換してしまった……!」と何だか緊張感を憶えてしまった。

それから1年、私と彼女は二人三脚でゼミの活動を支えた。指導教授は「私のゼミは学生主体で進めてもらうからね」という方針の人で、本当に、文字通り本当に全てを学生に丸投げしてきた。
グループ発表のグループ分け、発表のスケジュール調整、先生との情報共有、提出物をなかなか出さないメンバーへの連絡……。彼女と「うちら本当によくやってるよね?」とよく言い合いながら、ことを進めていた記憶がある。
一緒に責任者として頑張るうちに、少しずつ仲良くなって、一緒にご飯を食べに行ったりするようになった。1年生の時の私が知ったら、「えっ、あの子とご飯なんて行ってんの⁉⁉」とびっくりする姿しか見えない。
1年が経ち、ゼミ責任者の役割が無事に終わる頃には、彼女は私にとって気兼ねなく雑談や相談ができる、頼もしい友人になっていた。

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さて、そんな彼女は今、遠く離れた海の向こうにいる。バイトも勉強も頑張って、コロナ禍にも負けないで、留学の夢を立派に叶えたのだ。インスタを開けば、現地での生活を楽しんでいるキラキラした姿が目に飛び込んできて、見ているこっちまで何だか嬉しくなってくる。
帰国したら、もう一度大学4年生をやって1年遅れで卒業するみたいだ。ちなみに、その時に私は新卒で就職して1年経っているはずなのだが、果たしてちゃんと働いているのか、考えるだけで怖すぎる……。
でも私、あの子が帰国したら、「またご飯に行こう」って誘うつもりなのだ。ただでさえ高スペックなあの子のことだ。1年間海外で過ごしたら、「まじすっごい人」っぷりに輪をかけて帰ってくることだろう。その時に私は、自分もあの子に見合うくらいの高スペック人間に……とまでは言わずとも、自分に自信があって、堂々と振る舞える人間になっていたい。「あなたが留学に行っている間、私はこれを頑張っていたんだよ」、「最近はこんな目標があるんだ」というふうに、今を全力で楽しみ、未来を前向きに捉えられる、そんな社会人になっていたいのだ。 
推したい存在がいるって、素敵だ。自分自身の生活に張り合いが出て、叶えたい目標やなりたい自分像がどんどん出てくる。私はまだまだ未熟な人間だけれど、いつか自分自身も誰かにとってそんな存在になりたいなと思っている。
推しは先日、「留学生活もあと少しだなあ」とインスタでつぶやいていた。あの子が残りの留学生活を頑張っている間、私だって負けてはいられない。新卒一年目、不安は沢山あるけれど、目の前のタスクを一つ一つ着実にクリアして、一人前の社会人を目指そうと思う。

ふと空を見上げれば、太陽がさんさんと輝いている。時差はあるけれど、向こうもギリギリまだ日が出ている時間かな。
私を照らすこの光が、遠く離れたあの子にも届いていますように。