彼氏が彼女の濡れた髪を、ドライヤーで乾かしてあげる。
カップルでよくある微笑ましい光景だ。

けれど、私たちは逆。
私が、夫である彼の髪を乾かす。
いつからか、これが我が家独自の風習になっていた。

目の前にちょこんと座る彼。
かたやドライヤーを構える私は、とびきりご機嫌。
ただ、髪が長いわけではないから、あっという間にその愛おしい時間は終わってしまう。
それがちょっぴり惜しかった。

癖のない、さらさらとした髪。
鼻をくすぐる、シャンプーのやさしい残り香。
乾かし終えた後は、手ぐしで簡単に整えてあげる。
されるがままの彼は、生まれたての仔犬みたいな顔をしていて、とんでもなくかわいい。

けれど、そんな無防備な彼に毎度もだえている私も、なかなかかわいいのでは?
これは親バカならぬ、嫁バカだろうか。
別に、それでもいい。

誰も知らない、ふたりだけのドライヤータイム。
ふたりにしか分からない時間。
ふたりにしか分からない幸福。

ふたりにしか分からない言葉を、
愛を、
これからも囁き合っていこうよ。