「私って、他人からどう見られているのだろう。」
モヤに包まれた違和感が私の心の中でむくっと起き上がった。まるで眠い目を擦り、のそのそと冬眠から目覚めたクマみたいだ。
そう感じるようになったのは、私が20歳になった辺りだろうか、その頃から常に「自分」と「自分以外」で構成されている世の中について模索していた。
私は今4年制の大学に通っている。そして、先日卒業式を迎えた。
大学生最後の1年、大学に行けたのは両手で数えられるくらいに少なかった。(1年中夏休みみたいな感覚。なんだかソワソワしてならなかった。)
というのも、世界は、日本は、現在未知のウイルスと必死に闘っている。
大学生活最大の難関である「就職活動」というラスボスを倒さなくてはいけないのに、中々思うように進まない日々だった。
刻一刻と迫る将来の自分を決める期限。軽い気持ちで自己分析を始めた
その時の話をしようと思う。
大学に行けない中、刻一刻と将来の自分を決めなければいけない期間が迫っており、私は焦っていた。
時は止まってはくれない。日に日に焦りが募って、胸が張り裂けそうだった。
私は何をしたらいいのかも分からないまま、まずは私自身について考えてみようか、という軽い気持ちで自己分析を始めた。
冒頭でも書かせて頂いたように、私は常に他人からどう見られているのかがとても気になる。
気になったところで解決する訳でもなく、仕方がないのだが、他人から見られる私の存在を深く知りたいと強く思うのである。
そう心の中で思いながら、私は携帯を手に取り、「自己分析 やり方」とGoogle大先生に検索をお願いして、自分に合った記事を黙々と探し始めた。
マインドマップを書き始め、立ちはだかる「この先は行き止まり」
様々な記事を見ていく中で、私は“マインドマップ”という技法を発見した。マインドマップは、軸となるメインテーマを設定し、そのメインテーマから連想される情報を線で繋げながらどんどん展開をしていく、という思考方法である。
私は新品のノートの見開き中央に「自分」と大きく書き、マインドマップをせっせと書き始めた。
「食べる事が好き」
「映画鑑賞が好き」
ありきたりな文を繋ぎながらマインドマップを書き続けていると、いつしか「周りを見過ぎて負担になる事がある」という文に辿り着いていた。いざこの次を繋げよう……、と考え込むのだが、【この先は行き止まり】という標識が私の目の前に立ちはだかった。
どうやら私は他人からどう思われているのかを気にし過ぎて、周りも気にしすぎていたみたいだ。
この世の中で生活をしていると、様々なシーンで色んな私が登場する。
私しかいない時での私(それも本当に1人の時、大衆の中に紛れ込む1人の時など)。家族の前での私。友達の前での私。アルバイト先での私……。
登場人物は私1人なのに、なんだかB級映画でも作れそうなくらいだなぁ、と渋い顔で監督気分になる。
尊敬する人からもらった魔法の言葉に泣きそうになる
行き詰まった私は、勇気を振り絞って1番尊敬している方に「私ってどんな人ですか?」と聞いてみた。
その方は私の事を「とても感受性が豊か」と仰ってくれた。
その言葉を聞いた時、何故だか分からないが妙にしっくりきて泣きそうになった。
思えば、私は常に他人に合わせ、周りに順応できる自分をつくっていたのかもしれない。
他人からの視線が棘みたいに尖って見えた時は、私自身がヤスリとなって、擦り減るまで棘を丸くしていたときもあったと気が付いた。
そして、こんなにも重く考え過ぎていたのかと自分が馬鹿らしくも感じた。
「感受性が豊か」という魔法の言葉を貰ってから、『他人からどう思われてもその人にとっての私はどうみても私。その分色んな自分がいるのだ。十人十色と言うならば、一人十色でもありか。』と都合良くフランクに感じ取れるようになった。
感受性が豊かという事は、私が私を感受性豊かにしているという事だ。なら、もう全部私なのだ。
何気ない、特別でもない一言だったけれど、私にとっては1番の特効薬だったみたいだ。
言葉って魔法だ。実質0円、コスパが良過ぎる。
完成したマインドマップと共に挑んだ面接。面白いB級映画が作れそう
行き止まりとなっていたマインドマップに「感受性が豊か」と新たに繋ぎ合わせた。
暫くして完成されたマインドマップと共にラスボスに挑む時が訪れた。
面接官に必ずといっていいほど聞かれる「自分の長所、短所は何ですか?」という質問に、笑顔が引き攣りつつも、「感受性が豊かなところです。」と答え、エピソードを練り込みながら懸命にアピールをした。その後、ご縁があり内定を頂くことができた。
完成されたマインドマップを改めて眺めると、なんだか面白いB級映画が作れそうな気がしてワクワクした。
ヒロインは色んな私。その分色んな名場面を残そう。
こんな事を考えながら、「社会人1年目、私は他人からどう見られるかな。」と期待を膨らませつつも自分に喝を入れ、20歳の冬眠からいそいそと目覚める事にした。