結婚情報誌のCMに使われ有名になった、あの言葉。ずっと、意味が分からなかった。
一昔前の女の子は、将来の夢が「お嫁さん」だったり、中学高校に上がっても「将来はウエディングドレスが着たい」と思っている子が多かった気がする。結婚式に漠然とした「お姫様感」みたいなものを感じているようで、結婚したいと思っている友人はたくさんいた。
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でもわたしは、「結婚したい」と思ったことがなかった。好きな人が家族になったら、好きではなくなってしまうのではないかと、怖かった。ずっと一緒にいたいと思う恋人がいたことはあったけど、結婚して家族になりたいと思ったことはない。恋人とはいえ他人だから、お付き合いなんてただの口約束の関係だから、その距離感だから幸せなんだと思っていた。
だいたい、恋人がいなくても、わたしは幸せになれる。自分の幸せは自分で掴むし、自分の機嫌も自分で取るし、自分のことは自分で決める。誰かと付き合うということは、意見が分かれてぶつかったり、価値観を話し合ってすり合わせたり、誕生日を祝ったり祝われたり、記念日をどう過ごすか話し合ったり、なにかと考えることが多い。わたしはできれば考え事はしたくないし、ぶつかるくらいならわたしが我慢したい。めんどくさいし、時間も勿体無いし。
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「好き=常に一緒にいたい」みたいなのもなんとかしてほしい。わたしは一人の時間がすごく好きで、一人の時間を大切にしたい。その時間までも誰かといることを強要されるなら、強要とまでいかなくても「なんで一緒にいないの?」と思われるくらいなら、ずっと一人で生きていきたい、と思っていた。
大学を辞めてブライダル関係に就職してから、結婚に関してひとつ願望を持ったことがある。それは「ウエディングドレス姿を家族に見せたい」。ウエディングドレス姿を見せることは、今までの恩返しというか、親孝行なのではないかと思った。
何かを続けることの大変さと楽しさを教えてくれた母に、ベールをおろしてもらうことも。この世界で生きていく上での常識やマナーを叩き込んでくれた父と、バージンロードを歩くことも。親孝行とは違うけれど、気づいたらわたしよりも背が高くなっていた妹に、中座のエスコートをお願いすることも。全部が恩返しになる気がして。
親孝行や恩返しのためだけに結婚したいと思っているわけではない。わたしにはわたしの人生があるし、わたしは結婚願望のなかった女だし。でも、結婚というイベントが人生でどれほど特別かということは、ブライダル関係の仕事を経験した今、少し分かるようになった。
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きっと、なんのために、とかじゃないんだろうな、結婚って。お互いが結婚したいと思って、その意思を伝え合って、サインして、籍を入れる。わたしが思っているよりずっと単純な気持ちなんだろうな。
一人でアニメを観てるときも、一人であのアップルパイを食べてるときも、一人で楽器を吹いてるときも、すっごく幸せなの。それでも。
結婚しなくても幸せになれるこの時代に、 私はあなたと結婚したいのです。