「大学生になったら髪の毛を染める」 
これは、私が大人になったらしたいことの一つだった。なぜなら、高校生までは髪の毛を染めることは校則で禁止されており、髪の毛を染めることは自由の証のような気がしていたからだ。 

しかし、私は大学の入学式を迎えても髪の毛を染めなかった。それは、私の「変化を怖がる」性格の影響だった。

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私は、幼い頃から自分に自信がなく、自分の外見を変化させることで周囲の人から冷やかされることが嫌だった。そのため、私は自分の外見をなるべく変化させないように努力していた。

例えば、私は小学生から中学二年生の時まで、ずっと二つ結びという同じヘアスタイルだった。中学二年生の春休みに、初めて行った美容院で髪の毛を短く切られすぎてしまい、泣く泣く二つ結びを外したものの、その後もそれほどヘアスタイルを変えることはなかった。

結局、私はルールから解放され自由を手に入れたいと思いながらも、自分が勝手に決めた「変化をしない」というルールに縛られたままだった。特に、髪染めはメイクのように気軽に元に戻すことができない。そのため、「変化をしない」ようにしてきた私にとって、髪の毛を染めることはかなり勇気が必要なことだった。 

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しかしながら、私が変わらないままでも、周りはどんどん変わっていく。特に、高校の友人の外見は大きく変わっていった。そして、どの友人も、私に「高校の時と全然変わってないね」と言う。そのたびに、私は「全然成長していないね」と言われているようで少し傷ついていた。

「変化をする」ことが怖かった私は、「変化をしない」私がだんだんと嫌になっていた。中学二年生の時のように、何かきっかけさえあれば変わることができる。だから、何かきっかけがあれば、髪を染めよう。けれども、その機会はなかなか私に訪れなかった。 

そして、大学に入学して一年が過ぎた四月、いよいよその機会が私に訪れた。県外の大学に通っている高校の友人と一年ぶりに会う約束をしたのだ。今度こそ、友人に「変わったね」と言ってもらう絶好の機会だと思い、私はこの機会を逃すまいと髪を染めることを決意した。 

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こうして、私は髪を染めることを決意したのだが、どうやって染めるのかで悩み、美容院の予約をするまで一週間ほどかかった。そして、髪の毛を染める日がやってきたものの、染めるには想像の二倍以上の時間がかかった。

私の髪の毛は、太陽の光に照らされても墨汁を塗ったかのように黒くて太い。ゆえに、私の黒髪はなかなか茶色に場所を譲らず、所々黒い髪が残ったままの仕上がりになった。けれども、まだ見慣れない私の茶色い髪の毛は、私の顔色を明るくさせ、これまでの自分と違う自分になれた気がした。これまで変化を極端に恐れていた私は、変化に喜びを感じるようになっていた。  

そして、いよいよ友人と会う日がやってきた。友人は私を見るとすぐに、「大学生って感じになった!」と笑顔で言ってくれた。しかし、それから何時間か過ぎると、友人は「やっぱり高校の時と変わらないね」と私に言った。

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私は、あれほど勇気を出して髪の毛を染めたのに、まだ変わることができていないのかと友人に少しだけ憤りを抱いた。そして、少しむきになって思わず友人に聞いた。  

「茶髪にしたのに、やっぱり変わってない感じに見える?」 
すると、友人は何気なく私に言った。 
「変わってないのは性格。雰囲気は変わったよ」  。
なるほど、友人がさっき言った”変化”とは性格のことだったのだ。

もしかすると、これまでの「変わってないね」も性格のことだったのかもしれない。私は、たとえ自分のどこかが変化しても、自分をちゃんと見てくれる人がいることに気がつき、変化を怖いと思っていたことが馬鹿馬鹿しくなった。おそらく変化を怖がっていた昔の私は、自分の外見を変えることで自分の内側まで変わったように見られることが怖かったのだろう。

たとえ自分のどこかが変化しても、ちゃんと評価してくれる人はいる。だから、自分を変えることを怖がらなくてもいい。”こんなにも簡単なことに、私は髪の毛を染めて初めて気づいた。