最低な恋だった。
私の人生の大半に彼がいて、彼との恋愛は10年にも及んでいた。
今思い出しても、早く終わらせればよかったと思う。
でも、終わらせたところで他の人を好きになることもなかった。
そして、好きだと言った日にもう一度戻れたとしても、私は好きだと伝えたと思う。
そんな彼との恋愛に終止符を打った私がたどり着いた先は、テレビの中でキラキラ輝くアイドルだった。
◎ ◎
彼とは同級生だった。
怪我をして松葉杖をついている彼を見かけた時に、「あ、私この人のこと支えたい」。
そんな思いが降ってきた。
好きだと気が付いて、目で追うようになった。
彼と同じ学校の最後の年、同じクラスになった。
楽しかった。
隣の席にもなれたし、勉強も教えて貰った。
友達とふざけている姿を見るのも好きだった。
優しくて、頑固で、不器用な人だった。
彼とは学校が別になることが決まっていた。
何となく続けていたLINEで、好きな人の話になって、告白して、されて。
色々あったけど、付き合うことになった。
嬉しかった。
でも、彼は私に見せないように苦しさと戦っていたようだった。
部活もして塾も行っていた彼とはほとんど会えずに高校生活が終わった。
それでも良いと言って付き合うことを決めたのは私だったから、私にも非がある。
逃げずに彼ともっと話せば、こんな未来はなかったはずだった。
◎ ◎
彼は浪人し、連絡が取れなくなった
気恥ずかしくて友達に隠していたため誰にも相談できず、そのままコロナ禍に突入し更に誰にも相談できず。
ようやく友達に相談できた時には、彼と連絡が取れなくなって1年程経っていたかもしれない。
友達が協力してくれて必死で消息を探してくれたけれど、誰も知らないという事態。
八方塞がりになり、いよいよ諦めた。
既読のつかないLINEにさよならを打ち、無理やり閉じ込めた。
その後は色んな人に出会った。
デートもしたし、付き合う直前まで行った人もいた。
でも、誰のことも好きになれなかった。
彼といた時のように、そばに居たい、支えたい、そんな気持ちが芽生えなかった。
彼と元に戻れたとしても幸せになれないのはわかっているから、戻りたくはない。
でも、誰も好きになれない。
自分っておかしいのかな?
なんで周りの人は幸せそうなの?
なんでその人といることを選んだの?
毎日悩んで、幸せそうな人達を妬んだ。
彼氏のストーリーを載せている人達は非表示にした。
友達の幸せを願えない自分も嫌になった。
◎ ◎
そんなある日、悩んでいる私の目の前に現れてくれたのがアイドルだった。
たまたま出てきた動画を見たら、かっこよくておもしろくて、キラキラしていて。
時々失敗してる姿も等身大で。
気がつけばCDを全部揃えて、ライブDVDを買い、ファンクラブに入り、ライブも行った。 彼を失って人を好きになれなくなった私がもう一度好きだと思えた人は、アイドルだった。
この春から、そのアイドルが住んでいるであろう、東京へ私も移った。
東京の街のどこかで出会えないかな、なんて淡い希望をもっちゃったりなんかして。
辛い恋をしたから、今度は幸せな恋が出来るように、神様ボーナスをくれませんでしょうか。
なんて、そんなことを今日も祈りながら東京の町で新しい恋を探している。
◎ ◎
ちなみに、音信不通の彼から上京する最後にメッセージをもらった。
もう一度友達に協力してもらい、なんとか彼の家族に連絡が取れた。
その後、彼からは謝罪の言葉が来た。
その中に、就職おめでとうと伝えられなくて申し訳なかったと書いてあった。
ああ、彼は私の進む道を祝ってくれる気持ちがまだあったんだなと思った。
それだけでもう十分だなと思えた。
君と出会ったこと、後悔してないよ。
でも、君は私を手放したことを後悔した方がいいよ。
恋の終わらせ方なんて知らない。
多分、一生好きだった気持ちは忘れられないけど。
いつか全部乗り越えて、君より大好きになれる人と幸せになるよ。
大好きだった君よりも、今大好きなアイドルよりも、ね。