――まず、立候補を決めたらどんなことをしたのかを教えてもらえますか?

友人で現武蔵野市議のもみちゃん(酒向萌実さん)から「立候補しない?」って言われたのが10月24日午前9時30分。なんで時間までわかるかというと、立候補するって決まってから、すぐにグーグルアカウント開設して、フォルダ作って、カレンダー共有して、ガントチャート作って……というのを始めたので。30日にはチラシを印刷する会社に相談に行っていて、11月1日にはプロフィール写真撮ってますね。

幼く見えないように「前髪あり」を横に流して「前髪なし」にしました

この「プロフィール写真を撮る」っていう作業が実は結構大変だったんです。政党推薦だったら、色々教えてもらえたのでしょうけど、無所属だったので、手探りでやりました。

例えば、テーマカラーひとつ決めるにしても、「青だと立憲、緑だと都民ファースト…」とか党のイメージカラーもあるので、かぶらないようにしなきゃいけない、とか。ここで色を決めちゃうと変えられないので、結構悩みました。

それから、写真。あんまり幼く見えない方がいいよなと思って、直前まで前髪ありだったのですが、横に流して前髪なしにしました。

立候補前、前髪がある時の鈴木なりささん。「幼く見えるので、選挙運動の時は前髪なしにしました」=本人提供
立候補前、前髪がある時の鈴木なりささん。「幼く見えるので、選挙運動の時は前髪なしにしました」=本人提供

写真も、オレンジの洋服で笑顔爆発!という写真の方が私らしいと思ったのですが、一応おさえで、「政治家っぽい」スーツを着たものも撮りました。選挙戦が始まると、候補者も想像以上に増え「厳しい戦いになるぞ」と思ったので、こっちの「政治家っぽい」ものを使うことにしました。

「押さえ」で撮ったキリッと大人バージョン、こちらをポスターに使うことになった=青木智子撮影
おさえで撮ったキリッと大人バージョン、こちらをポスターに使うことになった=青木智子撮影

――立候補前にマストでした方がいいよ!ってことはなんですか?

よく言われるのは「家族の承認は得たのか」って聞かれましたね。立候補すると、本名と住所も出るので、家族に迷惑をかけることもあるかもしれないので。私の場合はパートナーに伝えても「いいじゃーん」で終わり。なんの障壁もありませんでした。女性が立候補すると、夫が反対するパターンも多いようですね。

あと……細かいことでいうと、コンタクトレンズを3カ月分買いました。

――本当に細かい!なぜ3カ月分も?

これまでは1カ月ずつ、病院でもらってたんです。選挙戦が始まると、朝演説して、帰ってきてお昼寝して、午後の予定をこなして、夜演説して……っていうスケジュールになるかなあと思って。お昼寝のときにコンタクト外した方がいいだろうなと。目は2つしかないから、ここは課金するところだ!と思って、買いました。

コンタクトは最悪なくなってもメガネで行けますが、ピルがなくなると大変なのでピルもしばらくもらいに行けないことを想定して3カ月買いました。

「ケアしてくれる人」ありきの選挙の仕組みは変わるべき

あとは、ワークマンに行って、オレンジの上着と、防寒用の股引をかいました。それから、冷凍食品も大量に買い込みましたね。とにかく家のことをやる余裕が全くない。
よく選挙で「妻です」「娘です」と引き連れた候補者がいますけど、ああいう支えがないと選挙が戦えないっていうのは実感しました。あれすごく嫌いで。無償でケアしてもらえる人だけが立候補しやすかったり、選挙で戦いやすい今の選挙の仕組みは、変わるべきだと思います。

まだ短い前髪が邪魔でカチューシャをしながら街頭演説をしました=本人提供
まだ短い前髪が邪魔でカチューシャをしながら街頭演説をしました=本人提供

――初めての街頭演説はどうでした?

もみちゃんの選挙応援の時にマイクを握ることはあったので、そこまで緊張はしませんでした。もとから話すのは好きだし、声もでかいし。

ただ、立候補前なので、色々気をつけないといけないことがあって。辞書みたいな厚さの公職選挙法にかいてあるんですけど、それをしっかり理解していないと違反する可能性があるので、そこだけは本当に気をつけていました。

例えば、告示日まで「私に投票してください」「立候補しました」「立候補します」はNGなんです。じゃあ、なんて言えばいいかというと「立候補する決意をしました」は、自分の心のなかの話だから、とがめられることはないと知りました。

実際にあった話なんですが、このあたりをわかっている方が、スマホで配信しながら「鈴木さん、補欠選挙があるんですか?」って聞くんです。ここでもし私が「そうですよ」とでも言っちゃうと、公職選挙法違反になる可能性もでてきます。

――なんて答えるんですか?

「(補欠選挙があるかは)わからないです。わからないので、私はいつかくるかもしれない市議会議員の選挙に向けて、みなさんに『ご挨拶』しているんです」って答えました。実際にその時点では補欠選挙があるかどうかわからなかったので。

初めての街頭演説は、吉祥寺駅サンロード前からスタート!たくさんの仲間が駆けつけてくれた=本人提供
初めての街頭演説は、吉祥寺駅サンロード前からスタート!たくさんの仲間が駆けつけてくれた=本人提供

――む、難しい。選挙戦でしんどかったことはありますか?

ポスターとか製作物を作るのが大変で、色々手直しをしていると朝5時。そのまま朝の演説へ、というような不規則な生活をしていたので、生理の不正出血がとまりませんでした。この時ばかりは「男性はいいよな~」って思いました。

それから、トイレに行けないのがつらかったです。街頭演説は自分が主役なので、私がいなくなるとボランティアの方たちの時間が無駄になる。駅のトイレを利用しようにも、候補者の格好をしていると目立ってしまうし。水を飲む量を減らして、調整してましたね。本当はよくないんでしょうけど……。

「かわいいね」「若いね」褒めているつもりなのはわかるけど、地味にダメージ

あと、「めっちゃかわいいですね!」とか「26歳なの?若いね!」とか言われるのも地味にダメージくらっていました。褒めているつもりなのはわかるんですけど、ルッキズムじゃん……て。でも、ここで反論することに時間をさくよりも、応援してくださる方たちのために声を届けることの方が大事だなと切り替えるようにしました。彼らの景色のなかに「若い女性が立候補してた」というのを残せたっていうのは良かったかなと思います。

うーん、大変だったことってそのくらいです。総じてめっちゃ楽しかった!

――なりささんはこれから何をしていく予定ですか?

私は(女性参政権の運動で知られた)市川房枝さんが大好きなんですが、彼女が「当選しても落選しても私は私」という言葉を残しているんですね。選挙も日々の生活も大事にしていきたい。私の場合は喫茶おおねこを続けつつ、またびっくりすることをやりたい!

今考えているのはコーヒーとゴミ拾いのコミュニティを作ること。池袋でそうしたイベントがあるんですけど、西東京にも持って行きたいなと準備しているんです。

「落選は次へのステップだけどさすがに悔し泣きしました」。翌朝、腫れた目で吉祥寺駅に立ち、お礼を伝えた=本人提供
「落選は次へのステップだけどさすがに悔し泣きしました」。翌朝、腫れた目で吉祥寺駅に立ち、お礼を伝えた=本人提供

なりさを見て元気出たってたくさんの方に言ってもらえた。踏み出したからこそできたことだよなって。本当に立候補してよかったなって思ってます。

だからこそ、落ちたからやめます、なんてことは全く思わなくて、良いスタートをきれたなと思っています。そんな感じで落選したのにむちゃくちゃ前向きでいたら、他の政治家の方に「おそるべき26歳」って言われちゃいました。