社会人四年目の夏、何を思ったか突然会社を辞めたくなった。別に仕事が辛いわけでも、いじめられているわけでもない。むしろ会社のメンバーはみんな仲良く、上司も部下も和気あいあいと働いていて、実家のような安心感があるほどだ。しかし、突然辞めたくなってしまったのだからしょうがない。私はその日のうちに上司に仕事を辞めたいという旨を伝えに行った。

◎          ◎

退職理由を聞かれた時は本当に困ったし、自分も自分のことがわからないまま辞めたくなってしまったので、そのまま正直に伝えた。しかし、そんな理由で退職を受け入れてもらえるはずがなく、その日はもう一度考えてごらん、と言われ面談は終わった。

その後数日間きちんと自分と向き合い、自分が何をしたいのか、何が好きなのか、なぜ辞めたくなったのかたくさんのことを考えた。その理由が自分でもわからないのならここを辞めたあとどうするかも未定で途方に迷ってしまうので、そんなことはあってはならないと思っていた。

そして私は今まで自分が海外で働いてみたいという野望を持っていたことを思い出した。学生の頃からずっと海外に憧れていたが、私には程遠い世界なのではと思い、今まで諦めてしまっていた。きっと今回急に仕事をやめようと思い立ったのは今こそ海外に行く時なのでは?と、自分の気持ちの向くままに上司に伝え、その数ヶ月後退職する運びとなった。

◎          ◎

その後はトントン拍子にやりたいことが出てきて、海外の求人を探し、応募し、無事一発で希望の会社の内定をもらったのだ。自分の直感に身を任せたところ全く知らない国の知り合いも一人もいない中東、ドバイのレストランで働くことになった。当時同棲していた彼氏を日本に置いていき、わたしは一人スーツケースを持ち旅立った。

知らない国は刺激がたくさんあった。高層ビルが立ち並ぶすぐ隣は砂漠が広がっており、日中の暑い日だと50℃まで気温が上がる。さすが中東だ。そして、その国の人々が話しているアラビア語はさっぱり理解ができなかったが人々が楽しそうにのびのびと過ごしていることはわかった。仕事自体はとても楽しかったが、ホームシックが酷く、食事も喉を通らず、最終的には環境に馴染めないストレスで数日の間に5キロも痩せてしまった。私は軽い鬱状態になってしまい帰国することとなった。

今思えば、もっと頑張れたのでないか、あんなにもたくさんの方に応援してもらったのにも関わらず、夢半ばで帰国するなんて情けない。日本に帰国してからの私はずっと自分を責め続け、下を向いて過ごす日々だった。それから友人や彼氏の支えもあって少しずつではあるがアルバイトを始め、友人と出掛けるようになり、帰国して三ヶ月が経った頃には今まで同様な暮らしが送れるようになった。

◎          ◎

今でももちろん思い出すと胸は苦しくなるし、変わらず自分を責めてしまう。だが、今年も終わるので、ここで一度気持ちを吐き出し新たなステップへ進むべきではないかと思い今書いている。

あの時期は間違いなく私の人生において辛く苦しい時間ではあったが、それ以上に普通ではできない貴重な経験もできたと思う。あの時会社を辞めようと自分の直感に従って行動した自分を褒めてあげたい。そして、さらに日が経てば当時の自分をより誇らしく思える日が来るのではないかと思う。今はまだゆっくりでも自分の楽しいと思う方へ人生を進めて行きたい。