スマホは誰よりも、何よりも一緒にいる時間が長い。歩いているとき、寝るとき、トイレにいるときさえもスマホがそばにある。そばにないとそわそわしてしまう。そんな強力な力を持ったスマホから私を放してくれるもの。それは旅行である。

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特に一人旅が効果的だ。大学1年目の冬、私は京都・奈良へ初めての一人旅をした。一人旅は寂しくて孤独な旅と感じる人もいるかもしれない。実際私も2日目あたりから寂しくなるかも、と思っていたがそんなことはなかった。想像以上に充実していて寂しさを感じる暇もなかった。誰にも何にも縛られず自由気ままに過ごし、自然を感じ、きれいな景色に感動し、たくさんの発見がある。一人旅はあっという間でスマホをいじっている暇なんてないのである。私はスマホを片手に音楽を聴きながら歩くことが習慣化している。しかし一人旅でこの習慣がさまざまな発見を見落としてしまっていることに気づいた。

冬の京都・奈良では川の音や聞きなれない鳥の声、お坊さんがお経を読む声、雪を踏んだ時の音などとにかくたくさんの音を聞いた。すべてが新鮮で美しかった。さらには奈良公園のベンチで一休みしていると地元のおばあさんが話しかけてきてくださり、一緒に山に登ることになった。頂上からの雪景色は本当にきれいでとても貴重で二度とない経験になったと思う。これは京都・奈良の風情・町並み、人柄のよさがあってこその経験であるが、加えてスマホによって閉ざされていた耳を開いたことがこのような経験をもたらしたと考える。

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スマホから解放されたのは耳だけではない。普段1日のスクリーンタイムが5時間を超える私にとって、目の疲れは避けようがないものである。旅行中は写真を撮る以外ほとんどスマホをいじることがなく、というよりもスマホをいじる時間がなかった。旅先で道に困ることがないように手書きの地図を作成していたため、スマホを開いて道を調べる必要もなかった。京都・奈良の昔ながらの街並みや歴史深い神社や寺、奈良公園の鹿や自然を見て感動した。スマホが目へどれくらい負担をかけているのか、そして定期的にスマホと離れる時間が必要なことを実感した旅となった。一人旅は身体を癒すだけでなく、こころも癒してくれる。

スマホはいつでもどこでもだれとでも連絡を取ることができる。これはメリットでもある一方でデメリットにもなりうる。常に連絡を取り合えることから、いつ連絡が来るのかとそわそわしてしまい、授業中でさえもスマホの通知に目が行ってしまう。SNSでは他人の充実した生活を見て、自分の生活と比較してしまう。常に誰かとつながっていることは安心できる一方で人間関係をより複雑にし、こころに疲労をためてしまう。一人旅は誰とも話す必要もなく自由に行動することができる。誰のことも考えなくていいのである。一人旅はこころの療養にもうってつけなのである。

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スマホは連絡を取り合った写真を撮ったり動画を見たりとさまざまなことをいつでもどこでも行うことができるとても便利なものである。しかし、身体に悪影響を及ぼしたり、新たな発見を見逃したり、こころに負担がかかったりとデメリットもある。それでも手放すことができない大きな魅力がある。暇なときにはスマホで動画を見たり漫画を見たりする。スマホを手に入れてから、本を読んだり趣味にかける時間が減った。それほどまでに私を夢中にさせるスマホでも、見ている時間が無駄と感じ、自然に手放させてくれるのが旅行である。旅行はそれほどまでに貴重で価値のある経験を提供してくれる。